「まったく、よく寝るよな…」
男の部屋に来て、なんの警戒もなく寝てしまうむぎに微かに危機感を覚えずにはいられない。
ここまで安心されると、それだけ気を許してもらっていると喜べばいいのか、安全圏に入れられたのかと悲しめばいいのかわからない。
(これでも彼氏だと思うんだけど…)
むぎの力にどれだけなれているかは分からないけど。
ただ好きで、一緒にいるだけで安心できる。
なんの夢を見ているんだか。
口元がニヤけてる。写真でも撮っておきたい。
「こ………く、ん」
「ん?」
起こしたか? そう思って返事をするが、何の反応もない。起きてはいないらしい。
そこで、気づいた。
(…俺の夢、見てるのか?)
たったそれだけのことが幸せで。
夢の中の俺はむぎと何をしてるんだろう。
夢の中でも彼女は笑ってくれているだろうか。
起きたら一番に抱きしめよう。
きっと、愛してるだとか、好きだとかそんなことは言えずに終わると思うけど。
伝わるように。
むぎが大事で、壊したくなくて、笑っていてくれればそれでいいんだと伝わるように。
ずっと抱きしめていよう。
まだ夢の中をさまようむぎに、知らず微笑みが零れた。