×
クリスマスソングを聴きながら

Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost but now am found
Was blind but now I see





 部屋の中から子供たちの歌声が響き始めた。
 ホームの中でも年齢の高い子供たちが、シスターの指揮で歌っているようだった。
「もう戻る?」
 きらが気遣わしげに訊くと、
「寒い?」
「あたしは平気。でも、吉乃さんはずっと外にいるでしょ?」
「オレは風邪引かないタイプだから」
「あ・・・」
 ようやく九艘は風邪も引かなければ怪我もしないことを思い出したらしい。
「きらが平気なら、オレはここでこの曲聴いていたい」
「・・・分かった」
 きらも何度となく歌った。
 アメージンググレース。
 賛美歌で、クリスマスはよく聞く曲だ。
 練習の前には、いつもシスターが日本語の意味を教えてくれた。
 細かいことは忘れたきらだが、盲目的とまで思えるほどに神を信じきっている、そんな歌詞だった気がする。
「よく覚えてないけどさ、この曲って神に遣わされた男のこと歌ってなかった?」
「えー・・・よく覚えてないけど」
「オレも。でも、なんかそんな話だった気がする。思ったんだよね、オレたち九艘と一謡にとっては、きらと陽菜って子が、神の遣いだったんだろうなって」
「ええっ」
 驚いたように声をあげるきらに、肩を竦める。
 ただの女子高生に、いきなり神の遣いもないだろう。
「でも、永遠に続くって思われてたこの争いを停戦に持ち込んだのは陽菜って子で、九艘と一謡の間に信頼関係を結ぶきっかけを作ったのはきらだ」
 死はいつも九艘から遠かった。
 怪我の痛みすら九艘は知らない。
 それでも、一謡だけはずっと別だった。ハンターの脅威は、他に脅威がない九艘の唯一最大の不安要素だったのだから。
「オレたちの歴史にとっては二人は神の遣いでも間違ってないと思う」
「・・・・・・白石先輩はともかく、あたしは・・・」
「こーら。少なくともオレにとっては、陽菜なんて子よりもきらの方がずっと魅力的に見えるんだから、自分を卑下するようなこと言うんじゃないの」
「う」
 困ったように言葉を詰まらせるきらに、畳み掛ける。
「オレはきらが好きだよ。きらだから好きになった。分かってないようだけどねえ、2年前の天泣の娘の活躍よりも、きらの活躍の方が一族にとっては有益だったと思ってる。別にきらの恋人だから言ってるわけじゃない。だから、きらは決して自分を卑下する必要はない。分かった?」
 吉乃のいつになく厳しい口調に、気圧されたようにうなずく。
「・・・・・・って、ごめん。クリスマスの夜に怒るなって話だ」
「あたしも、悪かった?から」
「こらこらこら、疑問系ついてるよ」
 面白そうに笑う吉乃に、きょとんとしながらも少しだけ笑ってみる。
「あー、それにしても。こんな話するとは思わなかったな。クリスマスだからこんな変な話もしちゃうんだ」
「あはは、吉乃さんの真面目な話を聞けた貴重な時間だったよ」
「・・・色々気に食わないけど、お嬢ちゃんが喜んでくれたなら、いいとしますか。・・・・・・綺麗な歌声も聴けたしね」
 星空の下、響き続けた歌声がちょうど止んだところだった。
「お礼として、きらにはいいものをプレゼントしようかな」
「なに?」
「ダイヤモンド」
「はあっ?」
「上をご覧下さい」
 悪戯っぽく言う吉乃に素直にきらは空を見上げる。
「えー?・・・って、」
「なに?」
「いや・・・・・・いきなり、肩・・・」
「ダメだったの?」
 きらが空を見上げた途端に、肩を引き寄せ、きらの頭の上にトンと軽く顎を乗せてしまう。
「あたし寒そうにしてた?」
「してないよ。安曇じゃないんだからさあ、そんな寒そうどうこうを言い訳にして肩抱こうとかしないって。やりたいからやってるだけ」
 呆れたようにため息を吐かれる。
「ほら、それより、上。空」
「あ、うん」
「ぎょしゃ座のカペラ、おうし座のアルデバラン、オリオンのリゲル、おおいぬのシリウス、こいぬのプロキオン、ふたごのポルックス。これで冬のダイヤモンド」
 早口のようにそれだけが捲くし立てられる。
 冬のダイヤモンド?それって・・・。
「プレゼントね」
「星!?」
「本物が欲しいならあげるけど、今のきらにそれは重荷でしょ?それは高校を卒業してからね」
「・・・別に、欲しいって訳じゃないけど・・・」
 拗ねたようなきらの口調に、ふと吉乃が笑う。
「うん。きらは自分から欲しいなんて言わないだろうね。でも、オレはきらにあげたいし、受け取ってもらいたいって思うよ。・・・2年後には、夜空の不確かなダイヤじゃなくて、ちゃんときらに似合うダイヤを贈るから」










 部屋の中では、アメージンググレースに続いて、聖しこの夜が響いていた。
 夜も遅くまで続くであろう、クリスマスソングのメドレー。
 バックにメドレーを聴きながら、理科の授業は終りを告げた。





うざいくらいに理科の授業です。
アメイジング・グレイスの意味は、私の勝手な解釈なので間違ってたらすみません;
◇ color season 〜クリスマス〜
掲載: / /