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文章書きさんに50のお題

 以下のリンクから、SSに飛びます。物凄く短い。
 下へスクロールしても読めます。
 オンマウスでカプ説明でます。
 小説・漫画関係が多くなっているので注意してください。


1.1 2.暁の街 3.憂鬱 4.ひとしずく
5.香水 6.出せない手紙  7.やくそく 8.シャボン玉
9.√ 10.魔法のじゅもん 11.コーヒー 12.花の詩
13.砂時計 14.夕暮れ時 15.MD2枚 16.故に
17.粉雪 18.そよ風 19.ココロ 20.AM.2:48
21.覚醒 22.紅 23.踊れぬ人形 24.ゲーム
25.快晴 26.サンフラワー 27.栞 28.岐路
29.カレンダー 30.洗濯 31.クランベリー 32.青空の行方
33.古い写真 34.銀色 35.サファイアブルー 36.眠れぬ夜
37.レシピ 38.アルファベット 39.御伽噺 40.斜塔
41.ゴシップ 42.指輪 43.セピア 44.教科書
45.好きなコトバ 46.帰途 47.裏路地 48.綺麗
49.虹の彼方 50.そして、また
























 誰かの一番でいたい。
 私はそう言ってくれる人をその人のことを一番に想える自信があるから。
「・・・そう思ってたんだけどね」
 私の言葉に、笙子ちゃんが困ったような顔をして、菜美が苦笑した。
「まあ、あんたの場合はさ、恋した相手がヴァイオリンだもん」
「恋!?」
「いつもヴァイオリン片手に学院中を走り回ってるのはあんたでしょ。その根性が、優勝に繋がったんだろうけどね」
 コンクールの終わった今、私の生活はヴァイオリンで。
 ヴァイオリンロマンスを期待されても、結局何も叶わなかったし、叶えようとも思わなかった。
 そんな中で手に入れたのは、たった一つ。
 世界で一つだけ。
 私のヴァイオリンだけだった。

 それだけで充分だった。

【金色のコルダ:香穂子+天羽+冬海】
リリED。これはこれで金澤に会えて良かった(笑)

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暁の街

 空が明ける前に。
 ふと目が覚めると、見覚えのない天井で。
「・・・・・・・・・・・・・どこ」
 外から、何か掛け声が聞こえた。

「おや、きら、起きたのですか」
 にこ、といつものように笑ったのは、この家の主人の涼さんだった。
 振り上げていた竹刀を下ろして、縁側の私の方に向いてくれる。
「あはは、なんか落ち着かなかったみたいで」
 冷静になれば思い出すのは、昨日の夜のことばかり。
 涼さんに抱きしめられて、ずっと幸せだった。
「ああ、いきなり家に連れてこられて、緊張するなと言うほうが無理だったでしょうか?」
 心配そうに訊いてくれる涼さん。
 こういう、少し控えめなところもあるのに、こんな風にいきなり連れてくるなんてこともする。
「いえ、別にそういうことじゃなくって! お邪魔だったよなーって・・・」
「邪魔だなんてとんでもない。私は楽しかったですよ。これからもこんな日が続いていくといいですね」
「ええっ」
 驚いたわたしのことも無視で、縁側に近寄ったかと思えば、昨日とは違って予告もなしに抱きしめられた。
「いつか、こうして毎朝、一緒に朝陽を見ることができる、そう信じています」
 私に泣き縋ったあの日と同じ強さで抱きしめられて。
 その言葉に応えるように、私も精一杯抱き返した。

【緋の記憶:涼×きら】
街関係ないけど、朝だから…!!

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憂鬱

 音が見つけられなくて。
 自分の中から音が逃げてしまって。
 強く渦巻く風に奪われたようだった。
 あの人の為に音を集めたいのに。
 あの人に似合う音はなんだろう。
 明るくて、澄んでいて、凛々しくて。
 高く伸びやかな音がいい。ここはスラーでつないで、ここは跳ねるようにスタッカートで。
 ああ、でもヴァイオリンだとこれは難しいかな。
 考えれば考えるほど音は逃げてしまう。
「きっと、今は休んだほうがいいってことじゃないかな」
 そう言ってくれるあの人に少しでも早く届けたいけど。
「今は、もっと他のことに目を向けてみようと思います」
 そう伝えよう。
 心配してくれているはずの先輩に。
 書けないのなら、今は書かないほうがいい。
「また書けるようになるから、大丈夫だよ」
 優しく笑ってくれた先輩を思い出すと、焦っていた気持ちが自然と凪いで。
 音を奪っていった風が、なぜか穏やかなものに思えた。

【金色のコルダ2アンコール:志水×香穂子】
初の水日。アンコールの志水は可愛かったですね、やっぱり。

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ひとしずく

 僕は幸福だよね。
 そう言ったら、目の前の女の子は心底不思議な顔をしてから、思いついたように笑顔になった。
「もうすぐ退院ですね」
 苦しみだけにまみれたような僕の今までの人生が。
 ようやくもう少しで終りを告げる。
「そうだけど・・・。ちょっと違うかな」
「違うんですか」
 せっかく思いついたのに、と少し不満げに首を傾げた。
「本当に僕は幸福だと思うよ」

――唯一つ僕の手から零れなかった雫は、何よりも大切で、この手に繋ぎとめておきたいものだから

【ラブレボ!!:神城×ヒトミ】
トゥルーED後。二人で幸せになればいい!!

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香水

 最初に部屋に入った瞬間に感じたのは、「あれ・・・?」と言う思いだった。
 さっきまで知らない男達に追われていて、引き倒されて――それ以上は思い出したくもない。
 それを助けてくれた秋庭さん。
 それに安心してしまって、そのまま何も考えなくなった。

「・・・これは・・・?」
 塩害も、もうそろそろ終息宣言が出そうだと言う頃。
 秋庭さんが突然、目の前に綺麗な包みの箱を置いた。
「・・・真奈も、そう言うもの欲しがる年頃だろうと思って」
 照れたように、それだけ告げて自室に着替えに戻ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・開けていいの、かな。・・・いいんだよね・・・?」
 こんなプレゼントは初めてで、少しドキドキした。秋庭さんが、くれた。それが何よりも嬉しくて。
 開けてみると、いかにも女の子らしい形をしていた。
 少しだけ手首に吹き付けてみると、ふわっと香る匂いが甘ったるかった。
 それで、記憶がフラッシュバックした。
「真奈?・・・って、うわ、結構甘いにおいするもんなんだな」
 自衛官らしい早着替えで戻ってきた秋庭さんは、辺りに少し漂うだけの匂いに顔を顰めた。
 ただ可愛いだけで買ってきてくれたらしい。
「苦手なんですか、この匂い?」
「いや、あんま、嗅ぎ慣れてないからな。早速使って・・・」
「そりゃ慣れてないですよね!こんな匂い!!」
「はあ? 真奈?」
「だって、私が初めて秋庭さんの部屋に入った時、こんなのじゃない、もっとキツいものでしたよね!」
 こんな子供だましのような、ただ甘いだけのようなものじゃなくて。
 こんなことで怒ってたら、やっぱり子供だって呆れられる。それが嫌なのに。
「・・・・・・・・そう、だったか?」
「そうでしたっ」
「でも、昔のことだろ?今さらじゃないか?」
 そんな言葉が普通に出てくるのが、やっぱり色々な「差」を見せ付けられているようだった。
 それが悔しくてたまらないけれど。
「まあ、妬かれるのもたまにはいいけどな」
 そう言って笑うこの人がやっぱりどうしようもなく好きで。
 「差」を見せ付けられるのが嫌なのに、それでもこうして敢えて子供だと指摘せずに喜んでくれる人が堪らなく好きだと思う。
 だから、もう少しだけは「子供」でもいいかもしれないと、少しだけそう思った。

【塩の街:秋庭×真奈】
百里異動前。あのケンカの前辺りから前兆があったというか…?

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出せない手紙

お久し振りです、お元気ですか――。

 そんな書き出しの手紙を、もう何枚書いただろう。
 聞くまでもなく、彼女はきっと元気で。
 明るく、みんなに愛されてた彼女のまま過ごしているだろうに。
 「好き」なんて言葉では追いつけなくて。
 「愛してる」なんてありきたりな言葉では言いたくなくて。
 どう言ったら伝わるのか、ずっとずっと悩んでいた。
 でも、それを伝えることも許されなくなって、結局何も言わずに彼女の目の前から消えた。
 あれからもう半年。
 枕もとに重ねられた手紙は既に10通を越えて。
「出せるはずもないのにね・・・」
 季節はもう夏になっていた。
 この手紙を、もし送れたら。
 その時は、ひまわりを添えてみよう。

 無理なことだと分かっていても。

【ラブレボ!!:神城×ヒトミ】
バッドED後。あれのどこが友情!?恋愛であり、バッドとしか思えない。

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やくそく

 あのときの約束を覚えてる?

「先輩が九艘にしてくれて本当に感謝してるんですよ」

 幼い頃の身勝手な約束を、笑って許してくれた彼女は。
 目の前で幸せそうに微笑んで。

「これからは私たちだけの時間が流れるんですね」

 きっと無理しているんだろうに、そんなことは微塵も感じさせない笑顔を向けてくれた。
 もう人間とは生きる時間が違う。
 これ以上、人間と一緒に生きていくことはできない。

「これからはずっと一緒にいましょうね、拓哉先輩」

 ずっと一緒に。
 ただ一緒にと願った身勝手さが、目の前の恋人の運命を狂わせたけれど。

「ああ、ずっとこれから――」

【水の旋律:拓哉×陽菜】
書いていたらまた水旋をプレイしたくなりました。

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シャボン玉

 追いかけたかった。
 それでも、高くて、早くて、追いつけなかった。
 知らなかった。ただ自分が小さすぎるから追いかけられないんだと思っていた。
 でも違くて。
 この腕につけられた数珠の呪いなんだと思ったのは、いつだっただろう。

「吉乃さーん!こっちこっち!」
 元気に呼ぶ声に応えて、そちらに視線を向ける。
「どうしたの、ホームに呼び出すなんて。デートしてくれる気になった?」
「いいよ?」
「ええっ!? どうしたの・・・?」
「その代わり、はいこれ」
 渡されたのは、店で売っているようなシャボン玉セットだった。
「今日は昼間シスターがいないからって、みんなの世話頼まれたんだ。みんなシャボン玉やるんだーって聞かなくて」
 せっかくだから、吉乃さん誘ってみたんだと笑うきらに、思わず泣き笑いのようになってしまう。
「えっ、ええ、なに吉乃さん?どうしたの!?」
 慌てるように覗き込んだきらを思わず抱きしめて。

「これが無自覚なんだから、本当に――困ったお嬢ちゃんだねえ」

 俺を救い上げてくれているのはいつでも、この小さな女の子だ。

【緋の記憶:吉乃×きら】
吉きらが好きすぎて、妙にシリアスになってしまうorz

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「火原、何をそんなにがむしゃらに・・・」
 放課後、珍しくオケ部に走らない火原に、柚木が訝しげに声をかけた。
「うん、ちょっと勉強」
「え?何・・・?・・・・・・・・・・・・聞き間違いか?」
「数学の勉強だよ、これ」
 最後にボソッと付け足された言葉は聞き取れなかったらしい。笑顔で教科書を指し示している。
「・・・・・・微分、かな」
 今更、高校3年生が勉強しなおすものではないし、受験勉強でもない限り、勉強する意味のない単元だ。
 火原がこんな時期から受験勉強の、しかも学科に力を入れるとは考えられない。
「そう!指数が苦手なんだよねって言ったら、笑われたから。俺でも、指数の微分できるんだぞってところ見せたくて」
 誰に、なんて聞くまでもない。友人に笑われただけなら、そのまま流すのが火原だ。
「で、それの関連でルートまでやってるんだけど、どうすればいいのかわらなくなってた」
 指数の微分なんてものは微分の基本中の基本だろうに。
 驚いて欲しいのなら、複雑な対数、三角関数、分数の微分を勉強すべきだと言いたくなって――でも、やめた。
「そうか、ルートって言ったらa=b^2になるbだろう?だから、1/2乗するってことを考えて――」
 珍しくヴァイオリンの後輩のためにやる気になった友人への講義が始まった。

【金色のコルダ:火原+柚木】
意味が微妙ですみません。指数計算が苦手と言った高3にびっくりした。

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魔法のじゅもん

 いつだって私の傍には、陸がいて、姉さんがいて、晶がいて――。
 そして、亮司さんがいた。
 私の傍には、いつも姉さんの婚約者として亮司さんがいてくれた。
 好きだったけど、それは恋愛感情じゃなくて、ただ安心するお兄さん的存在だった。
 それは姉さんがいなくなっても変わらなくて。
 でも、今は違う。
 ごめんなさい。本当に――。
 姉さんがどれほど亮司さんを想ってたかは知ってる。婚約を喜んでたのも。
 でも、気付いたから。
 過去の繰り返しになるのなら、それでもいい。ここで終わらせる。
「真緒も大事だけど、一番大切なのはあなただよ」
 そう言ってくれる亮司さんがいるから。
 それがまるで呪文のように、私を勇気付けてくれるから。
 姉さん、待ってて。
 必ず、助けるから。
 亮司さんのことは絶対に譲れない。だから、姉さんを私が傷つけることになる。
 我が儘だって分かってるけど。
 姉さんのことだって、絶対に諦められる存在なんかじゃないんだよ。

【翡翠の雫:亮司×珠洲】
数百年前の再現が私には本当にツボって仕方なかったんです…迷惑だけどな!

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コーヒー

 今までは普通に飲んでた、よな。
 記憶を掘り返してみるが、確かにコーヒーを出したら砂糖とミルク入れて飲んでいた。 
 それが、あの米軍襲撃からの一連の雑事を終えてみれば(後始末は勝手に近江がするだろう)。
   近江を筆頭に殴りたくなるやつばかりだった。とりあえず、近江以外を殴ったら八つ当たりするなと真奈から叱責されそうだからやめておいたが、殴っていいなら殴っていた。
 女でも関係ない。あの部屋に真奈が一人残されたことが許せなかった(近江は残っていようがなんだろうが知ったことではない)。
 落ち着いて真奈に向き合ってみれば、罵詈雑言投げつけられて、でも、最後にまたお帰りなさいと柔らかく迎えられた。
 そして、コーヒーが出されたのだが。
「・・・お前、砂糖は?ミルクはいらないのかよ」
「・・・・・・・い、要らないで、す」
 無理してるのがバレバレなこの状況はどうすれば。
 一口飲んだっきり、口つけてねえぞ。
「ほら、砂糖1つくらい入れればいいだろ」
「子ども扱いしないで下さい!」
 断固とした口調で言われても・・・。
「・・・何かあったのか?」
 事と次第によっては、また近江を殴りに行ってやる。やはりさっき殺しておくべきだったか。
「・・・秋庭さん、思ってること口にしてますよ。近江さん関係ないですよ・・・」
「あいつ以外に、余計なことをお前に吹き込むやつを知らないんだ」
「・・・・・・・・・・・コーヒーくらい、ブラックで飲めます」
 その主張の意味が分からずに、首を傾げるしかない。だからどうした。
「だから・・・っ、その子ども扱いやめてくれませんか・・・っ」
「っ!」
「うわあっ、ちょっといきなり吹かないで下さいよ!」
「お前がいきなり笑わせたんだろうが!なんだコーヒー飲めるどうこうで、大人だ子供だってのは」
 いきなりの飛躍に、自制が効かずにコーヒーを吹いてしまった。よかった、真奈にはかかってない。
「そんなことで大人だ子供だなんてこと決まんねえよ。大人だって、普通に砂糖とミルクを気持ち悪くなるほど入れるやついるしな」
「・・・・・・・・・・」
「不満そうな顔すんなって。・・・・・・・・・・頼むから、もう少し大人しく子供のままでいてくれ」
「?」
「俺が不安だから。いきなり大人になろうとするお前見てると、俺が不安になるから」

――コーヒーも何も飲めなくっていい。もう少し、俺に大人ぶらせてくれないか

【塩の街:秋庭×真奈】
無理にブラック飲んでた真奈が可愛すぎたんです…。

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花の詩

「ベル兄さん、こんにちは」
「アンジェ、よく来たね」
 肩を叩かれて振り向いてみれば、元女王候補の可憐な少女だった。
 そして、幼い頃に一緒に育った仲でもあった。
 何より、僕の未来の奥さんであったりもする。
「今日はどうしたの、何かあったのかな」
 今日は、陽だまり邸に行くと言っていたはずだ。
 あのオーブハンターの仲間4人がいてそれは有り得ないと思いながらも、一応訊いてみる。
「そういうことではないんです。ただ、レインと一緒にこの辺りに寄ったので・・・。ダメでしたか?」
「まさか、嬉しいよ。ついでって言うのが悲しいけどね」
 しかもレインくんかと苦笑いすると、途端に慌てて言い訳を始める。その必死さに、僕だけでなく、同僚たちも笑っている。
「はは、いいよ。気にしてない。ちょっと言ってみただけだ」
「・・・もう」
「膨れない、膨れない。で、その手に持ってる花は?」
 花束と言うわけではなく、数輪の紫の花がアンジェの小さな手に握られている。
「これはお土産です。ここに来る途中でレインが持って行けばって言ってくれたので」
「ラクスパーだね。図鑑ぐらいでなら見たことあるよ」
 でも、綺麗な花ですよねと笑う彼女に、僕も笑う。
 きっと彼女は、ラクスパーの花言葉は知らないんだろう。
 それに、レインくんの想いも気付いていなかったに違いない。

――信頼

 他にもあるはずだけど、一番に思い出せる花言葉はそれだ。
 アンジェを頼むと、そう言われている気がして、職場だと言うことも忘れてアンジェをただ抱きしめた。

【ネオアンジェリーク:ベルナール×アンジェ】
初のネオアンSSS。ベル兄さんの誕生花の花言葉が「信頼」で、これ以外ないと思った。

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砂時計

 知ってました?
 傍らに膝をついた少女が、いきなりそう言った。
「砂時計の砂って一定の時間で落ちるわけじゃないらしいですよ」
「そうなのですか?」
「私もよく知らないんですけど、そうだって友達が言ってました。で、これ、水季さん喜んでくれるかなって」
 バッグをゴソゴソ漁ったと思ったら、綺麗に包装された小さな箱が出てきた。
「水をイメージした砂時計らしくて、砂が青って言うか水色なんですよ。淡い感じが似てるかなって」
「これでも、もう30越えたいい年なんですけどね。・・・開けても構いませんか?」
「どうぞ」
 ニコニコと渡してくるきらから箱を受け取った手とは逆の手で、軽く髪を撫でる。
「ありがとうございます、気遣ってくれて」
 別にそんなんじゃないですよと慌てる姿も、まだまだ子供のようで愛らしい。優にはなぜかきっぱり否定されるが。
「ああ・・・本当に、綺麗ですね」
「綺麗ですよね」
 思わず言葉がきらと被って、笑ってしまう。
 今まではただ死を待つだけの身だった。何か無理をするわけではなかったけれど、積極的に治療をしようとしてこなかったのも事実だ。
 実際、斎宮先生以外の治療はすべて絶っていた。
 死んでもいい、寧ろ、それが加々良と愁一のためだと思っていた。役に立たない長男などいないほうがいいと思っていた。
 それでも、もし許されるのならきらと生きていきたい。
「ゆっくり落ちていくものなのですね」
 これからあと何年残っているのか分からない人生。
 今度はゆっくりと、きらと生きていければいいのに。

【緋の記憶:水季×きら】
水季様にはきらがいないと!

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夕暮れ時

 隣を歩く吉乃さんをちらりと見上げて、少しだけ。
 少しだけ、ため息が吐きたくなった。
 どこにでも行ける吉乃さんがなんでいつも隣にいるのか分からない。
 それが、喜んでいいことだって言うのは分かる。でも、
「なあに、お嬢ちゃん」
「なっ、なんでもない!」
「それはないでしょー。さっきから、何度も何度も見つめてくれちゃって」
 またからかう。これが嫌。なんでずっと子ども扱い?
「ほらあ、不満そうな顔、してるの分からない?」
「そうやってお嬢ちゃんって言ってくるのが嫌」
「それは・・・まあ、最初からそう呼んでるんだし・・・」
 一瞬たじろいだ吉乃さんは、もっともなことを言って不思議そうな顔をした。
 だからなんだと言わんばかりで。
「それに、お嬢ちゃんはまだ未成年だしね。名前で呼ばれたかったら、早く大人になりなさい」
 また無茶なことを言う。わたしのせいじゃないのに。
「普通の恋人同士なら、名前で呼んでるよ・・・」
 拗ねたように言うと、苦笑が返ってきた。
「・・・俺はね、お嬢ちゃんを大事にしたいよ。傍にいられるだけでいい。どこへでも行けるって分かってからも、本気で行きたい場所はいつまで経ってもお嬢ちゃんの傍しかない。
 だから、お嬢ちゃんがこの街にいる限り、俺はここを出て行かないよ。お嬢ちゃんの隣にいる。
 ・・・ごめんね。もう少しの間だけ、お嬢ちゃんを「お嬢ちゃん」って思わせて」

――そうじゃないと、壊しちゃいそうだ

 冗談っぽくつけたされた言葉の意味は分からなかったけれど、黙って頷くしかなかった。
 夕焼けに照らされた吉乃さんは、夕焼けだけじゃなく赤かったから。

【緋の記憶:吉乃×きら】
吉乃のシークレットヴォイスの報われなさを少し救済したかったけど撃沈。

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MD2枚

「もう、買い足りない物ってない?」
「ああ・・・香穂子が一緒に回ってくれたから、随分助かった。忘れてる物も結構あるものだな」
「うーん、でも、向こうでも買えちゃうものばかりだけどね」
 あと数日でウィーンへ出国する。
 あのケンカ以来、香穂子は寂しさも見せず明るく振舞ってくれている。
 今日も、オケが終わって自由の身だからと、買い物に付き合ってくれていた。
「・・・あ」
「うん?どうかしたのか」
 ふと、止めた視線の先には楽器店があった。
「楽譜、だろうか。見ていこうか」
「え、楽譜って訳じゃなくて・・・でも、入っていいかな」
「構わないが・・・」
 普段、楽譜や楽器を見に来るぐらいしかしない俺には、他になにがあるのか分からなかった。
「あった」
 店に入った途端、何かを手にとって嬉しげに声を上げた香穂子。手元を見てみると、MDだった。
「・・・それが、どうかしたのか? 何か録音するのか?」
「うん。月森くんのヴァイオリンと、私のヴァイオリンをそれぞれに録音したいなあって」
「なぜ?」
 訳が分からなくて、そう聞いてみると、笑って答えた。
「私の音、ウィーンまで持っていって、ね?」
「は?」
「前に言ってくれたよね。私の音を聴きたくなったとき、どこに行けばいいのかって。どこにも行かなくていいよ。これに録音して、それで持っていって」
 そういう意味じゃなくて――、
 それでは意味がないんだと、言おうとした先を封じられた。
「分かってる。私が目の前で弾く音がいいって言ってくれてるんだと思う。でも、無理だから。でも、これなら、少しは慰めにもなるでしょう?」
 笑った香穂子の目には、すぐに涙が浮かんできて。
「・・・私は、それで我慢する、から・・・。私もいつか、絶対追いかけるから。だから、今はこれを持っていて。お願いだから、私の音忘れないで・・・」
 涙を堪えているような声でそう言われて、何も言えなくなった。
 忘れるなんてありえない。同じ音は出せないと分かっていても、俺が焦がれて止まない音は香穂子の澄んだ、真っ直ぐな音だった。
 技術の足りなささえも気にならなくなるほど、感情に訴える、あの音が俺を変えたのだから。
「ありがとう・・・すまない」

 出国の日。交換したMDには、ただ1曲。
 汝を愛すだけが入っていた。

【金色のコルダ2アンコール:月森×香穂子】
俺が君と離れて平気だなんて思わないでくれ、に泣きたくなった。

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故に

「せーんせっ、次はどこにしますかあ?」
 隣で大声を張り上げる人に、とりあえず苦笑いを返す。もう少し静かにしてくれませんか・・・!
「ああっ、向こうでアイス売ってますよーっ!買ってきますから、待っててください、先生は!」
「ちょ、山本先生!?」
 このテンションが今日一日続くのかと思うと、なんでデートしようなんて思ったのかと自分自身を呪いたくなる。
 誰か、本当に止めてあの人を・・・!!
 周りの人もみんな笑ってるよ!ああもうっ!
「おっまたせしましたー!はい、どうぞ」
 さすが体育教師、と言いたくなるスピードで戻ってくると、アイスを押し付けられた。
「先生が何味好きなのか分からなかったので抹茶にしちゃったんですけど、よかったですかー?」
 大きな声を耳元で張り上げられるのは本当に困るけど。
 裏表なんてなくて、一生懸命なこの姿を見ていたいから。
「ありがとうございます」
 だから、これでもいいのかもしれない。

【フルハウスキス2:山本×香穂子】
アペンドでは当然のようにED除外された山本に泣いた(笑)(※ありました)

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粉雪

「ほら、先輩、雪降ってますよ」
「・・・朝から元気だな、お前は」
 ため息を吐くが、そんなことお構いなしで窓に張り付いている。
「今年初めての雪じゃないですか」
「12月には何度か降ってただろう」
「でも、今年初めてって言うのがいいんですよ。あー、積もらないかなあ」
 自分が寒がりだと言うことを忘れているらしい。マフラー、手袋、コート。完全装備のやつが何を言っているんだ。
「お前、そんなに好きだったのか、雪」
「好きですよ、綺麗で。それに滅多に見るものじゃないですから」
「そんなに見たいなら、この週末、スキーでも連れて行ってやろうか?」
 雪が見たいならスキー場に行けばいいだろうと言う当然の発想をしただけなのに、険しい顔をされた。
「こんな風に少しだけ降ってる雪がいいんですよ。スキー場の雪なんて潰れちゃってて・・・」
「北海道のスキー場は、パウダースノーだったけどな」
「そうなんですか?」
 途端に目を輝かせて、見てみたいなどと言っている。
「いいよ、本当に行きたいなら連れて行ってあげても」
「え、でも悪くないですか・・・?」
「まさか。気にすることじゃない、それに、」

―――北海道なら泊りがけだしね

 速攻で結構ですと断られた。

【金色のコルダ:柚木×香穂子】
何がしたかったのか、自分でもイマイチ分からない。

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そよ風

「香穂さん。風邪ひくよ、こんなところでうたた寝してちゃ」
「ん・・・加地、くん、おはよう」
「おはよう。・・・お昼休みでしょう、って突っ込みはしない方がいいのかな」
 隣ごめんね、と隣に腰を下ろしてみる。
 1年前、彼女のヴァイオリンに出会ったときには話しかけることもできなかったのに。
 今はこうして隣に座って、話すこともできる。
「やっぱりここはいいね。陽が当たって、春先でもこんなに暖かいなんて」
「そうだね、この屋上は加地くんが来てなかったら、私も来なかったよ」
 春の風はひたすらに軽く。
 春の日差しはただ柔らかく。
「僕も寝ようかな」
「転寝するなって言ったのは加地くんだよ?」 
「香穂さん抱き枕にして寝るから、暖かいよ」
 1年前、僕と彼女の間を吹き抜けていった柔らかなそよ風は。
 今、僕と彼女を羽のように暖かく包んだ。

【金色のコルダ2:加地×香穂子】
あの屋上気持ちよさそうですよね。スチルも綺麗だった。

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ココロ

 幸せって結構身近で、手をのばせば案外すぐに掴めるものだよ。

 そんな言葉を聞いたことがある。ずっと昔。不死人になる前に。
 そんなものなのかと、子供なりに納得していた。
 でも、今は分かる。そんなの嘘に決まってんだろ。
 他人に聞けば、俺の願う幸せなんてちっぽけなものなはずなのに。
 幸せに手なんて全然届かない。
 
『ハーヴェイ!』

 陽だまりのような暖かさで俺の名前を読んでくれるあいつを独りになんてしたくないのに。
 もう、何も考えられなくなってきて・・・。
 ぼうっとして。
 あ、やばい。なんか、暗く・・・。
 こんな時でも心配するのはやっぱりキーリのことだけな自分に、少し笑ってしまう。
 もし、次に俺が目覚めるときがあったら、キーリは生きていてくれるだろうか。
 やっぱり、他の人間のように俺を置いて死んでるんだろうか。
 生きてたとして、俺のことを覚えているのか。
 もうここまで来ると、自嘲しか浮かんでこない。
 こんなことになるなら、ちゃんとキスしてやるんだった。
 あんな中途半端なキスなんかで、キーリも――自分のことも誤魔化さなければよかった。

 意識が無くなる直前に浮かんだのは。
 俺の「ココロ」にはずっとキーリがいるんだろうという確信と。
 
――切なさにも似た愛しさだった。

【キーリ:キーリ×ハーヴェイ】
キスをせがむキーリの可愛さと焦るハーヴェイに萌え泣きしたのは秘密な訳ですが。

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AM.2:48

『HappyBirthday!』
 え、なにこれ。
 真夜中に鳴った着信音で起きてみれば光からのメールだった。
 ・・・・確かに今日は誕生日だけど。
 やっぱりあの双子、特に光は常識がないらしい。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・返信は朝でいいや。寝よう。
 そう布団を被りなおした途端、今度は電話を知らせる音がなる。
「もしもし・・・」
『ハルヒ?僕、光』
「声聞けば分かるよ・・・。こんな真夜中に何?」
 午前零時どころか、2:50を指そうかという時間だ。
『こんなって・・・まだ12時前だろ?』
「光、時計見た?」
『見たよ、ほら・・・・・・え、どうしたの馨?時差?向こう3時?嘘、ごめん起した!?』
 電話の向こうで呆れたような馨の笑い声が聞こえる。
『僕たち今香港に来てて。時差なんて日常過ぎて忘れてたー!』
 これはアレかな。自慢、かな・・・・・。
「香港・・・って、二人とも学校は?」
『休み休み、母さんも参加したファッションショーがこっちであったんだよね』
 って、違う!と耳元で大きな声がした。
「な、何?」
『ホントは日付が変わると同時に言いたかったけど、そっちが越えちゃってるならいいや』
「うん?」

『HappyBirthday、ハルヒ。これからも大好きだからね』

 馨の爆笑が聞こえてきた。

【桜蘭高校ホスト部:光×ハルヒ】
光はずっと馨にからかわれてればいいよね。

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覚醒

 地と炎。
 どちらかの力が目覚めたらジャスティーンはその瞬間にこの世からいなくなる。
 いつもレヴィローズに守られて、力のバランスを取り続けなかれば均衡が崩れて――それまでだ。
 分かっている。
 それは分かっているんだ。
 そして、サーシャとの契約さえ関係のないところで望んでしまう。

地の一族を選び取って欲しい――。

【レヴィローズの指輪:グレイ→ジャスティーン】
サーシャとの契約とは別に、地を選んで欲しかったとかだったら萌えるよな、と。

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 珍しい色の瞳は、夕焼けの様なんて言葉では追いつけないほどの紅だった。
 でも、血のような赤なんて禍々しさではなかった。
 そんな瞳を持つ、世代交代を迎えていないたった一つ至宝、レヴィローズはあたしを主人に指名した。

 あたしのお父さんの過去なんて知らなかった。
 母さんの過去も知らなかった。
 あたしが他の宝玉を優先するたびにあいつがどう思うかなんて、考えたこともなかった。
 だって、いつだって特別だったじゃない。
 いつもいつも冗談なのか本気なのか分からない言動繰り返して。
 どうして、本当に大切なことだけは言わないの――?

 今更だって言われるかもしれない。
 それは言い訳できない。
 でも、何と言われようともあたしはあいつの主人だから。
 全部。あたしのこれからの人生全部だってあげる。
 どうせあたしの人生だって、どれだけ保つか分からない。

 なら、最後の瞬間、一緒にいたいのはやっぱりレンドリアだけだから。

【レヴィローズの指輪:レンドリア×ジャスティーン】
少しはレンドリア顧みてやれ!と何度思ったことか(笑)

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踊れぬ人形

 たった一つの願いが、どうしてこうもままならないのでしょうか――。
 今上の許にゆくことになっていたのは彰子さまなのに。
 なぜ私が今上の許に?
 なぜ彰子さまがあの方の許に?
 政治の道具でしかない私たちはお父さまの手の上で、今上の手の上で踊るだけの人形で。
 それ以外に、生きる意味はないのだと教えられてきた。
 それでも。
 悔しくて、悲しくて、辛くて。ただ涙を拭うしかできないけれど。
 踊れなくなった人形の方がずっと幸せに見えるのはなぜですか―――?

【少年陰陽師:章子→昌浩】
帝に直接会う前。帝の配慮に泣きそうになった。

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ゲーム

 ゲーム感覚での犯罪。それって最低だよね。
 馬鹿じゃないのって思うよ。
 ゲームで捕まるなんて馬鹿げてる。

 それでも、日常のありきたりさに吐き気がする思いだった。
 そんなとき、カンニングの話が来て。ああ、こんなのは犯罪のうちにも入らない、そう思った。
 楓のことも、これで少しは鬱憤が晴らせるって思わなかったとは言えない。

 楓が相原くんをずっと見てたの知ってるよ。
 相原くんは気づかないで過ごしていたけど。
 私は知ってた。楓のことも―――相原くんのことも見ていたから。
 もし、相原くんのことを好きだって言ってたら変わってた?
 私はこんな日常に、もっと違う楽しさを見出せてたかな。
 今となってはもう叶わないことだけど。
 罪を弾劾されてたあんな状況でも、相原くんがずっと楓の味方してたことに、すごい嫉妬してた。
 私だけが悪いんじゃないって、一瞬思ったらもうダメだね。
 死んでしまった楓にすら嫉妬して、ホント嫌なやつ。
 でも、ごめん。想うことくらいは許してね・・・?

【魂葬屋奇談:深波←優子】
あそこまで対立したなら、三角関係でいいじゃない!(よくない)

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快晴

『泣き寝入りするのがオチだ』
 分かってる!
『よくて妹、いや孫か』
 イチイチうるさい!!
 そんな風にマジメに心配してくれてるのかどうか分かったものじゃない言い方するのに。
『そっちの応援もしてやるから』
 何の気なしに言われた言葉に、一瞬詰まってしまった。
『殴ってやる!』
 すぐにそう言い返して、逃げる深波を追いかけた。
 私が心から尊敬してて、感謝してて、大好きなのはユキで!!
 ユキだけで!!
 なんであんな一言に軽く傷ついてんの・・・!
 振り上げた拳の先にあるのは、ありえないくらいの青空で。
 
 深波なんか大ッ嫌い―――!!!!!

 警察の前じゃなかったら、絶対絶対叫んでた。

【魂葬屋奇談:深波←立夏】
ユキ←立夏に納得のいかない人間が書いてみましたよ、と。

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サンフラワー

「ちょっと出かけてくる」
「行ってくるね」
 仲良さげに声をそろえて出て行ったのは、元トードリア国第一王子、ジオラルド・クイスナ・トードリア4世の息子オニキスと、獣の耳を持った極東出身の少女黎宝珠だった。
「行ってらっしゃーい」
「ちょ、もう少し話せないの!?」
 見送るのはオニキスの兄弟、オパールとサファイアだ。サフは見送るどころか引き止めていたが。
「行っちゃった・・・」
「せっかく久々に私たちに会えたって言うのに、二人で出掛けちゃうんだもんね」
 最近、一緒に出かけることが多くなったんですよは、この城に出入りしている城下のおじさんの言葉だ。
 寂しそうなサフとは反対に、母親譲りの造作で艶やかに笑うのはオパールだ。
「前はそうでもなかったはずなのに。いつの間にあんなに仲良さげなの?」
「オニキスは前から好きっぽかったけどね」
 ただの旅の道連れ相手を、女装までして貞操の危機に遭い、仕舞には男の相手をさせられそうになるなんて迷惑もいいところだろう。
 そうなることが最初から分からなかったのは仕方ないにしても、そこまでの危険をなんとも思ってない相手にできるわけない。
 その他諸々、本人達はまるで無自覚だったが、そうとしか思えない言動は多かった。
「あの子が将来、私たちの義理の姉妹?」
「・・・・・・なってくれたらいいねえ」

 絢爛の春を見るためだけに大陸を渡る旅をして、その末に世界を救った少女を迎えたトードリアは、短い短い向日葵の季節を迎えていた。

【ちょーシリーズ:オニキス×宝珠】
最後になっても何もないオニキスと宝珠に愕然とした。あれだけ盛り上げておいてぇぇえええ!

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 ぱたん。
 ヴァイオリンの合間に、少しずつ月森くんの残して行ってくれた本を読むようにし始めた。
 ヴァイオリン弾いていれば自然に分かることも、それだけじゃ分からないこともあって、それはそれで楽しいひとときだ。
 こんな風に、森の広場で風に吹かれながらって言うのも気持ちいい。
「日野、休憩か」
「金澤先生」
「三年になってから、お前さんも土浦も頑張ってるからな」
 そう言って、ぽんと私の頭に手を乗せて軽く撫でた。
「で、それは・・・月森が残してったっていう本か?どこまで読んだ?」
「えーっと、ここです」
 ちょうど栞を挟んだところを開けると、少し驚いた顔をした先生が、柔らかく笑った。
「・・・あいつ、あんな鉄面皮でも家族は大事にしてんだな」
 挟んでいた栞は、月森くんがくれたウィーンの写真と、家族の写真、他にも何枚かの風景画だった。
 栞にするにはもったいないし厚くもなるけど、いつも持ち歩くにはそれが一番だった。
「香穂?いるのか」
「土浦くん?」
「よう。って、金やんも一緒かよ・・・」
「随分、不満そうだなあ?」
 そんな軽口に思わず笑ってしまう。
「・・・このうるさい教師は置いとくとして、日野、練習終わったんなら帰ろうぜ。送ってく」
「あ、うん」
 心底うるさそうに先生を睨みつけている土浦くんに苦笑しながら、ヴァイオリンをケースに戻す。
「じゃあ、失礼します、先生」
「おう。・・・月森、向こうで頑張ってるだろうな、お前たちみたいに」
 本に写真をはさんで返してくれて、そう言った。
「当たり前じゃないんですか、金澤先生。それじゃ、俺たちはこれで」
 聞く人が聞いたら、教師に対する態度じゃないと言われそうな言い方で本を取り上げて、歩き出した土浦くんを追った。
 空が蒼い。この空を、月森くんも見ているんだろうか。
 その蒼さは、ウィーンの空を写した写真によく似ていた。

【金色のコルダ2:月土金?香穂子】
月森・土浦・金澤、お好きなものをどうぞ。と言う感じに書いてみました。

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岐路

 目の前に颯爽と現れて、私を救ってくれたのは稀代の陰陽師ではなく。
 笑顔が眩しい、あのお父様にさえ目をかけられる将来有望な陰陽師だった。

「彰子、それは美化しすぎてる」
「そう、かしら?」
「あいつは半人前だが将来きっとたぶん立派で有能な陰陽師になる。それは認める。でもっ」
「なあに?」
 小さく小首を傾げて微笑む彰子には申し訳ないが、ここは言っておかなくてはいけないだろう。
 意を決して、物怪が口を開く。
「いっつも無理して、もう少し考えろって言いたくなるほどの真っ直ぐさで、自分の実力も把握できてなくて、まだまだ半人前も半人前なんだからな!?」
 延々続くかと思われた罵詈雑言の数々を破ったのは、やはり穏やかな彰子の笑い声だった。
「もっくんがついているから、私も吉昌様も露樹様も安心していられるのよ」
 それに、と晴明の部屋の方に目線をやる。
「私をいつも助けてくれるのは、昌浩だわ」

―――彰子のために妖異たちと戦ってくれた。
―――彰子のために章子を助けてくれた。

 何度助けられたかなんて分からない。
 今、私が生きているのも昌浩のお陰でしょう?

 変わらない声音でそう続ける。

 彰子の運命が変わる瞬間。
 必ずそこには昌浩がいて。
 必ずそこに昌浩が関わっているのだ。

【少年陰陽師:昌浩×彰子】
本当にこの二人の可愛さと、相手を思いやる気持ちには毎回萌えさせられます。

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カレンダー
 うちには誕生日が年に5回あった。
 父さん、母さん、祐巳、俺。
 そして、俺たち姉弟だけで祝った、二人の誕生日のちょうど真ん中の日。
 毎年、新しいカレンダーになるたびに二人で数えた。
 それだけが二人で祝える唯一の特別な日だったから。

「今年からは年に二回祝わないと」
「・・・・・・・・・・・バカ」

 祐巳と初めて恋人のようなキスをした日。
 カレンダーに俺たちしか分からない記念日が一つ増えた。

【マリア様が見てる:祐麒×祐巳】
妹からのリクカプ。これを推すのが私以外にもいたのかと驚いた。しかも妹。

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洗濯

「重そうだな、鈴原」
「麻生くん! うん、ようやく晴れたからね。頑張らないと」
「最近、雨ばっかだったから洗濯物干せなかったもんな。 俺、手伝うか?」
「あ、いいよ、大丈夫」
「つっても、洗濯物大量じゃん? 鈴原が大変な思いしてても御堂は絶対手伝わねえし」
「大丈夫だよ、家政婦なめないでね!」
「・・・そうか?」
「それに」
 幸せそうに笑うむぎが爆弾を投げつけた。
「なんかこれって新婚夫婦みたいじゃない?」

 麻生がドン引きした心の音はむぎには届かなかった。

【フルハウスキス2:一哉×むぎ】
むぎがこんな発言したら、御堂以外全員涙目。

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クランベリー

 なにやら美味しそうな香りが陽だまり邸に漂い始めた。
「この匂い、パンでも焼けたのかな」
「・・・アンジェリークだろうか」
 庭先で剣術をしていたジェイドとヒュウガが、真っ先にそれに気付いた。
「おや、二人ともどうされたんですか?」
「ニクス、今帰ったのか?」
「ええ、お嬢さん方が花束を作ってさってね。アンジェリークに差し上げようかと」
 どう考えてもニクスに渡したのであってアンジェリークのために作られた物ではないのだが。
 さすがに酷いのではないかとヒュウガが窘めようとするが、ニクスに先を越された。
「この香りは、パンでしょうか。上手く焼けたようですね」
 ではアンジェリークに渡してきますよ、とさくさく屋敷へ入ってしまった。
「あいつは。あれではニクスに渡した者が可哀想だろう」
「ニクスも分かってはいると思うけどね」
 憤慨するヒュウガと宥めるジェイドに上から声がかかった。
「二人とも、サルーンにアンジェが呼んでるぞ」

 日常の中にいつもアンジェリークの笑顔があって、それを囲む優しい笑顔があって。
 毎日アンジェリーク手作りのお菓子が並べられて。
 暖かい、名前通りの雰囲気が心を癒し。

「今日は、一人で作ったのか?」
「レイン! ええ、ちゃんと焦げずに焼けたの」
「じゃあ、明日のアップルパイにも期待していいのか?」
「・・・・・・」
「ほら、二人ともその辺にして。明日は、私と一緒に焼いてみましょうか、アンジェリーク」
「俺も手伝うよ、アンジェ、ニクス」
「二人がそんな風に言ったら、俺が苛めてるみたいじゃないか?」
「パンが冷めるぞ。・・・このジャムはアンジェリークが作ったのか?」
「美味しいかどうかは分からないですけど・・・。クランベリーが採れたと持ってきてくれたんです」
「美味しそうだね。せっかく作ってくれたんだ、温かいうちに食べよう」
「じゃあ、今、ジャムを盛り付けますから、先に席に着いていて下さい」

 ただ優しくて。
 ただ穏やかで。
 ただ柔らかい。
 オーブハンターとしての役目がなくなったとしても。
 この絆は続いていくのだと無条件に信じられる日常がそこにはあった。

【ネオアンジェリーク:オーブハンター+アンジェ】
カプなしでもいけるのがネオアンのいいところ。みんな心広くて、優しい物語でした。

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青空の行方

「ハールヒ」
「うわっ、馨? いきなり飛びつかないでよ」
「・・・・・・・・・抱きつかないでよじゃなくて、飛びつかないでよなところにハルヒらしさを感じたよ」
「何それ? あれ、珍しいね・・・光は?」
「光は教室。ハルヒと二人になりたかったから置いてきた」
「・・・・変わったね、二人とも」
 変わらざるを得なかった。
 本当に欲しい物はあのままじゃ手に入らなかったから。
 それは僕も光も同じことだった。
「・・・ねえ、僕はやっぱり酷かったかな」
 光に対して。
 いつまでも『二人だけの世界』は無理だと分かっていたけど、ハルヒと三人の世界はあった気がしてしまう。
 突然の言葉に一瞬驚いたハルヒは、少し泣きそうな顔で、
「・・・馨が酷いならあたしはもっと酷いね」
 そうして『二人で』見上げた空は酷く遠くて蒼かった。
 いつかは僕らの気持ちも、こんなに澄んでくれるのだろうか。

【桜蘭高校ホスト部:馨×ハルヒ】
光SSSとの落差は何事かと…。シリアスですみませんでした…。

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古い写真

「これが、梓さんですか?」
「・・・・・・よく、見つけてきたんだな」
「拓哉先輩とアルバム整理してたら勢いよく隠されたので・・・」
 拓哉・・・と苦く呟いた。
 すべて写真だけでも捨てようと思っていたのに。まだ残っていたのか。
「捨てようとか思ってました?」
「・・・写真くらいは捨てた方がいいとは思っているな」
「言いましたよね、梓さんを愛してた貴人さんごと好きだって。それに今好きだって言ってくれているのは私だけですよね?」
 確認のような、縋るような響きに、思わず笑いそうになってしまう。
 普段どれほど普通にしていても、こういう脆いところが陽菜にはあって。
「もちろん。梓は愛していたことも覚えているし、今でも申し訳なく思っているが、それだけだ。もう思い出になっている話だ」
 思い出と言い切っていい存在ではないのは分かっている。
 それでも、今大切なのは陽菜だ。
「なら、私は大丈夫です。だから、梓さんの写真とか思い出を捨てるなんて言わないで下さい」
 可哀想です。そう付け足された。
「陽菜は――優しいんだな」
 そう言って撫でようとすると、勢いよく首が振られた。
「優しくは、ないです・・・」
 今想われているのは私だって確認しないと、捨てるなって言えなくて。
 可哀想なんて言い方は傲慢で。
 だから優しくなんてないのだと、微かに涙を堪えるような声がした。
「―――それでも、そう言える陽菜は私にとっては優しいよ」
 梓のことは、陽菜をどれだけ想っても、梓を殺したも同然の過去がある限り忘れてはいけない存在で。
 だから、忘れなくていいと言ってくれる陽菜が堪らなく愛しいと思ってしまう。


【水の旋律:貴人×陽菜】
梓の想い出はそのままでいいと言った陽菜に拍手した。

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銀色

 暗闇で、一人、また一人と斃れて行く。
 皆一様に心臓を弾丸が直撃して、即死だ。
 そして、全員が軍に追われている犯罪者ばかり。
「・・・戻りましょう」
 その場の生きている全員が銃を戻したのを確認して、リザが短く告げた。
 これからも上を目指すあの人のために、自分は躊躇いなく引き鉄を引き続けるのだろう。
 たとえ、まっすぐにそれが正しいことなのかと糾弾されても。
 不条理な命令に従わなくてもいい地位まで登りつめてやると言ったあの人を、そこまで押し上げる。

 去った後に残ったのは、鈍く光り、元の色が銀だったと辛うじて分かる銃弾と。
 ある一人の人間のために殺されたも同然の、動かない人間のみだった。

【鋼の錬金術師:ロイ+リザ】
ロイリザを目指しましたが、私自身の好み的に無理でした…orz

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サファイアブルー

「香穂さんの髪ってすごく綺麗な色だよね」
「そおうかなあ・・・緋すぎて嫌だけど」
「もったいないよ。艶やかで僕は好きだな」
「・・・・・・・・・綺麗な色って言ったら、加地君の髪の色の方が断然綺麗だよ。ハニーブラウンなんて、あんまりいないし」
「ありがとう、香穂さんにそう言ってもらうのが一番嬉しいよ。あ、なんなら触ってみる?」
「え、いいの?悪くない?」
「ふふ、遠慮なんてしないで。どうぞ」
 じゃあ、と手を伸ばして一房掬って玩ぶ。
「柔らかいんだね」
「そう? 普通じゃないかな」
 そう言った加地がまた笑う。
「うん?」
「香穂さんはこの髪の色好きなんだなあって嬉しくなってただけだよ」
 香穂さんの髪の色より好きだって言ってもらえて嬉しいよ、と髪に触れている香穂子の手を握る。
「でも私の一番好きな色は別の色だけどね」
「え?」
「今、近くで見て大好きになったよ」

 加地くんの瞳って、綺麗な碧で私は好きだよ。

【金色のコルダ2アンコール:加地×香穂子】
アンコール後なら、この程度は余裕かなあと。どうだろう。

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眠れぬ夜

 眠れない日々が続いて。
 いつしか、「日々」なんて言葉では足りなくなるほどの年月が経った。
 一謡に殺された妻。
 殺されに行った妻。
 愛しているだけでは、守れなかった妻。
「私は、九艘になったことを後悔してないし、しませんよ」
 今、目の前にいる少女はそう言って、弟を許していた。
 許す以前に、恨んでもいなかった。

 眠れない夜を越えて。
 ようやく眠ったのは、陽菜に怒られた直後だった。
 心配したと怒鳴られたあの公園で。
 もう何年眠っていなかったのだろう。
 梓と同じ、元々は人間だった彼女。
 死んだ妻よりも年下で、後悔していないのは今だけかもしれないと分かっているのに。
 信じられた。
 彼女はもう、私の前から消えてしまうことはないんだと。
 どこまでも愛していいんだと、そう信じることができた。

【水の旋律:貴人×陽菜】
梓も辛かっただろうけど、一番種族を気にしてたのは貴人だったんだよ…?

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レシピ

「・・・おいしい」
「そうか?」
 得意気でも何でもなく、ただ普通にそうか?と聞いて、そのまま黙々と食べ続ける人を香穂子は恨みがましい目で見つめてみた。
「・・・・・・・・・・・なんだよ、お前さんは」
「どうしてそう、何でも私よりも出来ちゃうかなあって恨んでみただけです」
「僻むな。料理とか、掃除とか。そこら辺は、出来て当たり前だろ。独身長いんだから」
「・・・・・・・それはそうですけど」
 なんせもう10年以上一人暮らしだからなあと、ぼやくのはこの音楽準備室の住人、金澤紘人教諭。
 生徒からの評判は「教師に見えない」「もう少しマジメに・・・」「授業中に瞑想すんな」など様々だ。
 本人も、「教師」「教諭」「先生」などと言われると、居心地が悪いらしい。でも自分で教師は尊敬しろよーなんて言ってたりもするが。
「でも、私も料理勉強したいなぁ・・・」
「料理教室なんて通ってもお前さんの場合、ヴァイオリンで潰れそうだしな」
 その通り。
 香穂子自身、休日返上で9月からの音楽科転科のために今から大忙しだ。
「お袋さんにでも――」
「先生、教えてくれませんか?」
「はあ?」
「だって、行きもしないのに料理教室は入れないじゃないですか?先生上手いし、時間があるときだけでいいですから!」
「ちょっと待て待て待て。どこで作る気だ?素直にお袋さんに習えば――」
「先生の家はまずいですか?」
「来るな!」
「じゃあ、家ですか?」
「バカ言うんじゃない」
「どこでやりますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・レシピだけは書いておいてやるから、素直にお袋さんと仲良く作ってろ」
 お前と二人っきりで家に閉じこもれるわけないだろ、と逸らされた視線に。
 一瞬驚いた顔をした香穂子は、そのまま破顔した。

【金色のコルダ:金澤×香穂子】
恋愛未満が金日の基本だと思うんですが、なってないですね…?

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アルファベット

「初めて見る記号がいっぱいだねえ」
 物珍しげに望美の英語の教科書を捲るのは、異世界からやってきたと言われても到底信じることはできないくらいに現代に馴染んだ梶原景時、その人だった。
 実際、まず異世界の時点で話を聞くことをやめる人間が大半だと思われるので、誰にもそんな紹介はしないが。
「それはそうですよ。英語ですもん」
「うん、アルファベットっていうんだよね、これ?」
「そうですよ、全部で26種類。これの組み合わせなんです」
 へえ、とまた教科書に目を落としている。
 珍しげに見てはいるが、こちらに来てから数学・化学・物理の教科書、参考書は一通りさらっている人だ。
 どこまで本気で珍しがってくれているのかは分からない。
「文字自体の発音は分かったけど、意味が全然わからないな」
 こんなんじゃ、文法なんて当分先だねと笑う。
「私たちも、単語の意味を覚えながら文法覚えていったんですよ。どれですか、分からない単語」
「どれも分からないけど、じゃあ、これは?“アイ”って読むんだよね?」
「そうですね。読み方はそれです。私はって意味ですね」
「じゃあ、これ。“always”・・・。えーっと、オー、オールワイズ?」
「惜しい。オールウェイズ。少し発音が違ってますよ。いつもって意味です」
「次はこれ。“love”これは?」
「ラヴって読みます。愛してるとか、そんな意味で。Likeと似てるかも」
「likeは覚えたよ。好きとかそんな意味だよね」
「第一義はそれです」
「これは?“only”・・・えーと、オンリー?」
「そうです、なになにだけとか、そういう意味です」
「あ、これは分かる。“you”あなた、だよね」
 得意そうに言う景時に、笑いを堪えながら望美が頷く。
「そうですよ、よく知ってましたね」
「まあね。じゃあ、今までの単語を日本語に当てはめると・・・」
「ずっとあなただけを愛しています、ってところかな」
「そうだね、俺はいつもそう思ってるよ」
「ありが・・・ええ?っていうか、なんで的確に文章になる単語拾い上げてるんですか!?」
「少し、勉強したから」
 こっちに来て数日でここまで勉強するのって結構大変なんだよ。
 そう笑った景時に、望美は少し泣きたくなりながら、苦笑するしかなかった。

【遙かなる時空の中で3十六夜記:景時×望美】
景時最萌えじゃない?って思ったので、勢いで書いてみました。頑張った景時を褒めてあげてください。

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御伽噺

「お姉ちゃんが小さい頃は絵本読んでくれたんです、楽しかった」
 知らない素敵な恋物語に溢れていて。
 なにがあってもひたすらに、相手を想っていて。
「私もそんな恋愛をしたいなって思ってました」
「・・・・・・・そうですか」
 春の日差しが差し込む休日の午後。
 葵さんがゆったりと過ごせる時間なんてほとんどなくて、今日だってかなり無理にとった休みらしい。
「そんな恋愛は、できそうですか?」
 紅茶に口をつけながら、少し不安そうに訊いてくる葵さんに、思わず吹き出してしまった。
「御伽噺の中なんかよりも、今の恋愛が楽しくて仕方ないです」
 よかった、と安心したように微笑む人に思わずこちらも笑ってしまう。
 家族を失って、一哉くんたちに出会って。
 その末に出会ったこの人に恋をして。
 ここまで来るのにかかった時間は長かった。
 けれど、どんな御伽噺の中の主人公達よりも幸せで。
 暖かな眼差しに、泣きたくなるほどの幸せを感じた。

【フルハウスキス2:葵×むぎ】
カプ的にフルキス2最萌え。これからは穏やかに過ごして欲しい。

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斜塔

 少しずつ侵食されていく俺たちへの呪いが。
 あんな普通の女に解けるなんて、誰が信じられただろう。
 兄貴が壊そうとしたこの宝生家とは無関係だったはずの彼女が、いつも一生懸命で。
 俺たちなんて放っておいていいんだと何度言おうとしても、言わせてなんてもらえなかった。
 呪いのように男系にだけ引き継がれる血は、ロゴス解放のたびに彼女を求めた。
 彼女がロゴスを解放する使命に燃えているのならそれでいい。
 さっさと解放して、すぐにこんな家から逃げてくれ。
 そう言わなくてはいけないのに、言えなくさせる。
 古い古い塔が少しずつ傾くのと同じで。
 少しずつ。彼女へ想いが傾いていく。

【花宵ロマネスク:葵×珠美】
葵ももう少し我が侭言ってもいいと思うんですが。双子の我が侭さを見てると、つくづく思う。(可愛いけど!)

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ゴシップ

「っく、こんなもの出さなくても、いくらでも話してやるって思うんだけどなあ」
 もう何度目か分からない、私たちのデート現場を写した写真を見て要さんがため息を吐いた。
 事務所的にはこの考え方は完全にアウトらしく、しゃべるなと要さんに厳命し、私にもできるだけ炎樹を見張っていてくれと頼まれた。
 私が喋るとは思っていないらしい。
「迷惑だろ、こんな風に書き立てられるの。明里もそう思うよな?」
 不満を隠そうともしない子供っぽさに呆れるやら、可愛いと思うやらで忙しい。
「そうね、でも今のところ実害はないし。別に気にしてないわ」
「そうかあ?」
 それよりも、と自然に笑いがこみ上げてしまう。
「なんだ?」
「こういう記事を見てると、ああ私が要さんの彼女なんだなって実感するかもしれない」
「はあ?」
「だって、そう思っちゃうのよ、こんな記事読んでると」
「・・・明里、今日泊まれるよな?泊まっていけよ。な?」
「・・・・・・・・・明日仕事だって言ってたのは要さんだと思うけど」
「こんな記事読まなきゃ彼女だって実感できないなんて言われて放って置ける性格でもないからな」
 笑顔で言い切る要さんに、思わず手近にあったバッグを手元に引き寄せた。

【ラスト・エスコート:炎樹×明里】
2発売に期待しまくってるのは私だけじゃないよね…?炎樹みたいなルートはもうないと信じてる(苦笑)
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指輪

「・・・ありがとうございます」
「なんだね、あまり嬉しそうに見えないが」
 もう定番となった助手席でお礼だけは言っておく。
「毎回、私がコンクールで優勝するたびに何かくれたり、連れて行ってくれたりしますよね」
 今回だって嫌に高そうなドレスが届いてしまった。次はこれを着ろってことですか。
「学院の知名度はその度に上がるからね。あのまま普通科に居て欲しかったくらいだ」
 お礼だよ、と教育者にあるまじき発言をサラッと吐いて笑っている。
「次は何がいいかな」
「別にいらないですよ!そんなものなくても出ますし、頑張りますから」
 何度そう言っても、無理に出させているという自覚はあるのか何かしら贈ってくれるのだが。
「・・・・・・・・では、指輪辺りでどうだろう」
「指・・・っ、はいっ?」
「不満かね?」
 不満以前の問題だ。どの指に合う物をくれるつもりですか、って言うか一生徒に理事長が贈っていいものじゃないです。
 何のつもりなんですか。
「無意味にそんなもの頂けません」
「だから、学院の」
「私にとっては無意味です」
 こんな風にため息つかれようとも、何されようとも貰うわけには行かない。誰のためにコンクール出場しているか、この人は絶対分かってるはずなのに。
 今回みたいに物をもらい続けたら、そんな気持ちまで誤魔化されてしまう気がする。
「要らないって言ったら要りませんから!」
 そう怒るように言って、家に着くまでと目を瞑った。
 だから、しばらく経って呟かれた一言に気づかなかった。

「早く、世界に立てる演奏者になってくれたまえ」

【金色のコルダ2アンコール:吉羅×香穂子】
羅日の基本も恋愛未満だと思いますが、これもあんまりそんな風でもない…?

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セピア

 謝れない。
 あいつが桐子を好きだったのは知っていた。
 冬の温泉。あの時、俺も、きっと凪も桐子のことが好きだった。
 俺たちの婚約者騒動の時も、相変わらず俺たちの婚約者は桐子だけで。

 桐子が凪に傾きかけていたのは分かっていたんだ。
 でも、俺のことを気にしているのも知っていたから。
 あのタイミングしかなかった。

 すまない。謝ることは簡単でも、決してそれはできなくて。
 子供の頃、凪と過ごした優しい思い出が遠く、薄くなっていく。
 もっと違うやり方があったはず。
 分かっているのに。

今、腕の中で眠る桐子を抱きしめれば後悔は全て消えていく。

 謝罪は凪と、俺を選んでくれた桐子を傷付けると分かっていても、浮かんでくるのは謝罪の言葉だけだった。

【結婚しようよ:風×桐子】
あの夜、風を選んでいたら。それはそれでハッピー来たんじゃないかと思うのですよ。シリアスだけど、これは。

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教科書

「最近、珍しく仕事が忙しいらしいですね金澤先輩」
「吉羅?理事長様がこんなところに何の用だ?」
 吉羅の顔を確認した途端、さっさと手元の雑務に視線を落としてしまう。
「いえ、日野くんが嬉しそうに先輩のことを話していたので、本当にそんなことがあるのかと確認しに来たんです」
「・・・暇だなあ、この学校は」
「これでも、どこかの音楽教師よりは忙しいつもりですが。時間の使い方がいいんじゃないんですか」
「俺は要領が悪いと、そう言うことか?」
「本当に仕事なさってるんですね」
「聞けコラ。・・・・・・・・・・・・ま、生徒がどこかの誰かさんのせいで面倒押し付けられてるからな。教師も少しは頑張ってみようかって気になったんだ」
 目の前の雑務だけでなく、音楽科教師たちに日野を気遣ってやって欲しいと頼んで回ったことは目の前の人物にも伝わっているのだろう。
 らしくない、なんて言ってる場合じゃない。
 一生懸命な生徒を応援して何が悪い。教師なら当然だろう。
 誰に揶揄されているわけでもないのに、心の中ではいつもそう思っている。
 そう思っていること自体、何か疚しいことでもあるんじゃないかと疑われそうだ。
「それはそれは。教師の鑑のような発言ですね」
「馬鹿にしてるのか?」
「まさか、気のせいですよ」
 どう聞いても馬鹿にしているとしか思えない発言なのだが。
「それでは、私はもう行きます。仕事もいいですが、日野くんがたまに寂しそうに弾いてますよ、ヴァイオリン」
「・・・・・・・・・・・・それがどうした?」
「別に。ただいつも彼女を見ているのは一人ではないと、そう言いたかっただけです」
 失礼。
 それだけ言い残して、嵐のように去って行った。

【金色のコルダ2アンコール:金澤・吉羅→香穂子】
金澤優勢?(笑)VS.イベント欲しかったですよね。

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好きなコトバ

「ん?僕の好きな言葉?」
 いきなりどうしたの、そう言いながら笑うと、香穂さんが困ったように教室のドアの方を見た。
 それで納得。
 誰もいないように見えるけど、誰かいるんだろう。天羽さん辺りかな。
「そうだなあ・・・。香穂って名前が好きかな」
「加地くん!?」
「本当なのになあ。これはダメか。あとは・・・改めて考えると難しいね」
「だよね、私も聞かれて難しかったよ」
 香穂さんが、はあとため息を吐いた。この様子だと、色々取材されたらしい。
 アンサンブルも終わった今、僕達に対する需要なんてないだろうに。
「・・・・・・・・・・そうだね。じゃあ、『おはよう』でどう?」
「え?なに、それ?」
 不思議そうに見上げてきた香穂さんに、
「おはよう」
「・・・・・・・・・・・・・もう、下校時刻だよ?」
「思い出さないかあ・・・」
「ごめん・・・わからない」
 不思議そうな表情は、そのまま申し訳なさそうな表情に変わった。
 困らせるつもりはなかったんだけど。
「僕が、初めて香穂さんに掛けた言葉はこの言葉だったよ。香穂さんが返してくれたのも、これだった」
 今でも覚えてる。
 今はすぐにかけられる言葉でも、初めてかけるとき、どれだけ緊張したことか。
 気軽に声をかけられるようになるまで、どれだけ心の中で繰り返したか。
 絶対に香穂さんには話さないと決めているけれど。

「だから、僕が一番好きな言葉は「おはよう」だよ」

【金色のコルダ2:加地×香穂子】
加地は、香穂子と話した言葉なら全部好きなんじゃないの?とか思ったことが原因です;

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帰途

 なん、だろう・・・。
 隣を俯きながら歩く須藤に視線だけやって考えた。
 こんなとこ兄貴に見つかったらややこしいことになる。
「あ、あの・・・っ」
「何?」
「いや、何って言うか・・・」
「須藤・・・?」
 帰り際、いきなり一緒に帰ろうと言われてこうしているが、さっきからこんな調子だ。
「須藤はもう少し、言いたいこと言ってもいいんじゃないか?」
 余計なことだとは分かっていても、一言言ってやりたくなる。
「え・・・?」
「控えめなのは女子の中でも珍しいし、須藤の優しさってことなのかもしれないけど」
「そう、かな・・・」
「いや、知らないけど」
「どっち?!」
 何を期待されたのか。
 クラスメイトで同じ保健委員。それくらいしか共通点のない相手に、あまり期待しないで欲しい。
「もしだけど」
 いきなり大真面目な顔で見つめられて、たじろいだ。
「もし、身近に間違ったことしてる人がいたらどうする?」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・仮定の話なのに真剣すぎないか。
 ついでに、唐突過ぎないか、それ。
 俺が引いたことに気づいたのか、精一杯と分かる笑顔で謝られた。
「ごめんね!私も何言ってるんだろ・・・。忘れてね」

 須藤の自殺はそれから2ヶ月経った日のことで、俺は須藤の言葉通り会話はすべて記憶の彼方だった。
 あの時、俺が何か言っていたらこんなことにはならなかったのか?
 須藤のが俺をどう思っていたかを、他人から聞かされることもなかったんだろうか。
 なにより、俺が須藤を想う気持ちに、死んでから気づくなんて馬鹿なことにはならなかったんだろうか――。

【魂葬屋奇談:深波×楓】
軽くこんなストーリーがあったのかなと。深楓は可哀想すぎる。死んでから両想い(?)って!

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裏路地

『電車乗るの、私好きなんだよね』
『・・・・・・君はよくこんなことをするのか?』
『んー、さすがにこんなことは初めて。目的もなく電車に乗ったりはしないよ、普段は』
 月森くんが付き合ってくれるからすごく楽しい。
 そう笑い合ってからまだそれほど時間は経っていないのに。
 こんなに彼女と離れることが辛いとは思わなかった。
 メールも電話も、彼女自身の温かさを全ては伝えてくれないから。

『今日はこっちの裏道、行ってみない?』
 好奇心旺盛で、見ているこちらがハラハラする危うさが合ったけれど。
 そんな日常を愛していた。
 今も変わらず、君を愛している。

【金色のコルダ2アンコール:月森×香穂子】
月森が楽しそうに電車に乗ってたことに笑った。柚木とも電車乗りまくったなあ。

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綺麗

 汚れたものばかり見てきたわけではないけれど、見てきたものは不条理なものがほとんどだった。

「だから先輩も捻た・・・・・・イエ、なんでもありません・・・」
「言いたいことがあるなら聞く用意はあるが?」
「滅相もない・・・」
 なら最初から言わなければいいものを。
「・・・・・・・・・・・・でも、」
 ハルヒが少し躊躇ったように口を開いた。
「余計なお世話かとは思いますが」
「・・・・・なんだ?」

「綺麗なものも見つけたじゃないですか」

 それが誰のことを言っているのかすぐに分かってため息が漏れる。
「そんなにいいものとは思えないが」
 反論しても説得力は皆無で、ハルヒはずっと笑ってる。

「あれとの友情物語よりも、ほかに綺麗な思い出が欲しいものだがな、ハルヒ?」
 一瞬にして笑い声が止んだ。

【桜蘭高校ホスト部:鏡夜×ハルヒ】
あんまりシリアスにならないでくれたのはよかったかなと思うんですが、どうでしょう。

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虹の彼方

 幼い頃からこの場所に閉じ込められて。
 幼心に母親を求めても、それも叶わなかった。
 ただ崇められて過ごす日々だった。
「ルネさん、どうしたんですか?」
 ニコニコと笑顔で寄ってきたのは、現女王のアンジェリークだった。
「やあ、アンジェリーク。ご機嫌だね」
「ルネさんは落ち込んでますね」
 落ち込んでいると言う少し見当違いな言葉に思わず笑ってしまう。
 これだから、アンジェは一緒にいて飽きない。次に発する言葉すら予想できない。
「落ち込んでるわけじゃないよ。で、アンジェはどうしてそんなにご機嫌なのかな」
「さっきまで降ってた雨が上がったからです。ここからじゃ分からないですけど、向こうの窓からだと虹が見えますよ」
 だから呼びに来たんです、と僕の手を取って歩き始めてしまう。
「虹くらい珍しくもないと思うけど。何度も見た事はあるよ」
「でも、私はルネさんと見たことがなかったから、見たかったんです」
「僕、と?」
「ここですよ」
 女王陛下の執務室へと続く廊下の窓から見えた虹は、今まで見たどの虹よりも輝いて。
 雨の上がった、清新な空気に浮かんで見えるそれは、今まで見たどの虹よりも美しく。
「・・・いつか、虹の向こうに行ってみましょうね。お母さんに会いに行ったみたいに、いつか一緒に見に行きましょう」

「そう、だね」

 いつか見に行こう。
 アンジェ、君がいるなら本当に叶いそうだと思えるよ。

【ネオアンジェリーク:ルネ×アンジェ】
ルネの最終イベントには泣いた。ちょ、会いに来い!

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そして、また

 あいつと音楽の出会いは、あのヴァイオリンだと思っていた。

『この曲知ってる!』わざわざ大喜びしてくれた曲は誰だって曲名、作曲者、メロディ、全て言えるだろうエリーゼのためにだった。
 あいつがもしも、エリーゼのためにでクラシックに興味を持ってくれたのだとしたら、そのきっかけはやっぱり俺なんだろうか。
 そうなら、、あの妖精が偶然の出逢いをくれたのだと悔しく思っていたのが馬鹿らしくなる。
 最高の出会いは自分の手で掴んでいた。
 俺たちは互いのターニングポイントに必ずいて。

 香穂が音楽に目を向けるきっかけには俺が。
 俺が音楽に戻るきっかけには香穂が。
 香穂がヴァイオリンを始めるときには俺が。
 俺が新しい音楽を見つけるときには香穂が。

 そして、また。

 今度は。
 二人で音楽の道を進んでみよう。
 今までだって自力で手に入れてきた出逢いだった。
 なら、これからだって俺たちだけで見つけて行けるだろう。
 
 俺たち二人で創る音はどんな響きだろうな。
 どんな風に広がっていくだろう。
 それが楽しみで。

 この出逢いとこの瞬間のために音楽を続けてきたんじゃないのかとさえ思えてくるんだ。

【金色のコルダ2:土浦×香穂子】
この二人はどこまで少女マンガの王道を行ってくれるんですかね!(笑)

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小説と漫画が多くてすみません。
今まで扱わなかった作品が多くなったので、ご覧頂いても分かりづらいものが多かったでしょうか…。
◇ 春宵一刻 〜Spring Night〜 〜文章書きさんに50のお題〜
掲載: 08/05/11