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夢見る作者に50のお題

 以下のリンクから、SSに飛びます。物凄く短い。
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 オンマウスでカプ説明でます。


1.ベタな出会い  2.白い吐息  3.乙女心  4.僕だけのお姫様  5.握手しよう 

6.一輪のチューリップ  7.飛べない心  8.手料理  9.レディファースト  10.長い一日 

11.紫の上  12.七色の空  13.百面相  14.見えない壁  15.タイムオーバー 

16.私の18番  17.過去の未来の現在の  18.−×−=+  19.休日返上  20.君の為の嘘 

21.馬鹿ップル  22.一目惚れなんて信じない  23.男の浪漫  24.以心伝心  25.カラフルな夢 

26.恋人と親友  27.現在進行形  28.ダイヤモンドは永遠の輝き  29.ラヴコール  30.僕ら記念日 

31.フェミニスト  32.LOVE≠LIKE  33.初恋  34.女の敵  35.ブルームーン 

36.Second kiss  37.夫婦漫才  38.ハニー  39.抱き枕  40.寝不足 

  41.傘の水滴  42.拝啓  43.策士  44.被害者  45.ひらひら落ち葉 

46.ターゲット  47.止まない霧雨  48.枯れたサボテン  49.視線の先  50.Number oneでOnly oneさ 












ベタな出会い

「思ったんだけどね・・・」
「ん?」
 帰り道、隣を歩いていた香穂がいきなり真面目な声で言った。
「もっとベタな出会いがしたかった私・・・」
「はあ?」
「初対面が先生にコンクール当日に紹介されるって」
「・・・出会いはそれでも、俺たちのしてきたことは充分ベタだと思うがな」
 何度別れても、何度もこうして出逢うのだから。

【金色のコルダ2:土浦×香穂子】
土日は信じられないほど少女漫画でした。

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白い吐息

 この綿津見村にも冬が来た。
 例年通りに寒くて、例年通りに雪が降った。
 でも、今年は違う。
「姉さん、寒いのか?」
「うん、ちょっとだけね」
「そうか。・・・嫌?」
 陸は私の手を掴んで、自分のコートのポケットに入れた。
「・・・・・・ビックリしただけ・・・」
 今年は、今までよりもずっと素敵な冬が来てくれた。

【翡翠の雫:陸×珠洲】
すみません、どこら辺が白い吐息っていう・・。ほら、寒そうってことで・・・!

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乙女心

「一哉くんは、いっつも一言多いか、少ないかだよね」
 せっかく頑張って料理作って待っていたのに、あっさり残業だの一言で無駄になってしまった。
 今はもう切れてしまった電話に向かってそうぼやく。
「・・・・・・別に、謝ってほしいわけじゃないんだよ」
 料理が無駄になったのは嫌だし、食べてもらえなかったのは悔しい。でも、それを謝ってほしいんじゃないんだよ。
 ただ、少しだけ。
 ほんの少しだけでいい。
 ちゃんとあたしと言葉を交わしてほしいんだよ。

【フルハウスキス2:一哉×むぎ】
こんな乙女チックな人間じゃないですね、むぎはorz

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僕だけのお姫様

「むーぎちゃん」
「え、な、なに、瀬――じゃない、一宮君?」
「なあに話してたの? 山本先生と」
「う、いや、特には何も・・・」
「じゃあ、なんで手なんて握られてたの?」
「いきなり掴んできたんだよ!」
「へえ」
 なんだろう。なんで、笑顔の瀬伊くんがこんなに怖いんだろう。
「僕のお姫様に手を出したらどうなるか、身をもって知ったほうがいいのかな?」
 山本先生。明日、郵便ポストに入るであろう謎の蝋燭に気をつけてください。

【フルハウスキス2:瀬伊×むぎ】
腕力がない瀬伊はこういう嫌がらせを素でやると思う。

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握手しよう

 最後だから。
 きっと、もう会うことはないよね。とても寂しくて、辛いけど。
「今までありがとう」
 差し出した手に戸惑うような視線を向けてきた月森君に、精一杯笑いかける。
「しばらく会えないだろうから。ね」
 ごめんね、嘘ついてごめんね。
 もうきっと会えないけど。
「ああ・・・ウィーンで君を待っている」
 最後までずっとこうして笑いかけてくれて、握り返してくれてありがとう。
 振りほどいてくれて構わないのに。
 笑いかけてくれなくたっていいのに。
 最後の最後まで、なんでこうもこの人は私なんかに優しくできるんだろう。
 私が選んだ手は、月森君の手ではなかったのに。

【金色のコルダ2:月森→香穂子】
ごめ・・・っ!月森はなんとなく報われない気が・・・。

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一輪のチューリップ

「わあ、可愛いですね」
「チューリップ?もうこんなに咲いているのか」
 学校からの帰り道。
 ふと目を放した隙に珠洲が道端の花に目を留めて、ついでに足まで止めていた。
「あー、こんなに綺麗に咲くなら、埋めて置けばよかったかなあ」
 球根を植えておかなかったことを後悔までし始めた。
 はあ。珠洲は何が面白いのか、いつもこんな寄り道ばかりだ。
「克彦さんは好きな花ありますか?」
「別にない」
「私は可愛い花なら、何でも好きですよ」
 誰も訊いてない、なんて言っても聞かないんだろう。
 珠洲の言いたいことを察して、今度チューリップを一輪だけ贈ってやろうと思う。
 自分のキャラではないことをするんだ。それなりの見返りも当然として。

【翡翠の雫:克彦×珠洲】
克彦がただでお願いきいてくれるなんて思えないから、つい・・。

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飛べない心

「ため息多いよ、あんた」
「大丈夫ですか?」
 学校帰りの喫茶店。ああ、ここの近くに何度か連れてきてもらったね。
「うん・・・」
 まだ離れて2ヶ月。こちらからの連絡が圧倒的だけど、向こうからだって連絡はくれる。
 今は治療の準備で忙しい。
「大丈夫、平気だよ」
 上手く笑顔作れてる?
 心配そうな菜美と笙子ちゃんの顔を見ないように、窓の外を見上げる。
 今すぐ飛んでいけたらいいのに、と。

【金色のコルダ2アンコール:金澤×香穂子】
待ってろ、の言葉に涙しそうになったのは秘密なんだからねッ!

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手料理

「どう、ねえ!?」
 目の前にででんと数々の料理が並べられた。
 そして珍しく、涼の家には客が多い。
「上手くできていると思いますよ、きらさん」
「本当ですか?やった〜。涼さんのお陰です」
 涼の優しい声音に、すっかり他の人間の存在を忘れていそうなきらにわざとらしい声が聞こえる。
「ちぃねえ?デレデレしすぎ」
「柏木・・・っ、う、旨そ・・・いや、あの・・・」
「デレデレ!?・・いやでも、相手は涼先生・・・っ」
「お嬢ちゃーん・・・忘れられたら悲しいなあ・・・」
 それぞれ、葛藤がありそうな者や嘆く者、冷ややかに睨む者様々だ。
 その後、大慌てできらが弁解し、微かに涼が傷ついたのは余談だ。

【緋の記憶:康吉涼優好→きら】
ドラマCDでのきら総受けっぷりはさすがに真似できなかった。

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レディファースト

「ねえ、加地くん、香穂にドア開けて先に通してあげたり、イス引いてあげたりしてるよね」
「・・・うん?」
 隣を歩く谷くんに、何気なさを装って言ってみる。ここ1ヶ月、とみに仲がよかったように見えた友達を思い出す。
 ここのところずっと香穂子は加地くんにべったりだった。
「だから?」
「・・・・・・・・・」
 だから? だから?じゃないよ!分かってよ!!
 たまには加地くんがしてくれるみたいなこともしてほしいってこと、どうやったら分かってくれるだろう。
 それができない人を好きになったと分かっていても、思わずため息が漏れてしまう。

【金色のコルダ2アンコール:谷×東雲】
あの馬鹿ップルぶりは何事ですか。

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長い一日

 先輩が倒れた日は、いつもいつも苦しくて。
 これ以上ないくらい、緊張する。
 先輩は私を残して逝ったりしない。だいじょうぶ。
 言い聞かせても、言い聞かせても、涙が止まらなくて、頭痛までしてきてしまう。
 それでも。どんなに痛くても、苦しくてもこの恋に後悔はできなくて、今でも出逢えたことを感謝している。
 あなたに逢えて、あなたに好きになってもらえて本当に幸せでした。
 手術中の表示が消えて、中から出てきた主治医の先生がふと私に微笑んだ。
 ようやくその瞬間、息をすることができた。
 ありがとう。
 誰にともなくそう思う。私から先輩を奪わないでくれてありがとうございます。
 長い長い一日が、また終わった。

【ラブレボ!!:神城×ヒトミ】
神城が倒れた日のヒトミは、もう気が気じゃないんだろうなっていつも思う。

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紫の上

 小さい頃からずっとずっと好きで。
 私が梓馬さまの妻になるのだと思っていた。梓馬さまもきっとそう思ってくれていると。
「僕には自分で結婚相手を選ぶくらいの自由はあってしかるべきだと思います」
 その一言で、私の自信は崩れ去った。
 そして連れてきたのは、紅い髪が印象的なではあるが、十人並みなのは間違いない、そんな女の子だった。
「言っておきますが、僕は香穂子を紫の上のようなことにするつもりはありません」
 何を言っているのか、全く分からなかった。
 そんな私を見て、梓馬さまは私の大好きだった笑顔で言った。
「僕の妻は彼女で、誰かと結婚して、彼女を愛人として扱うなんて絶対しないということです」
 梓馬さまの隣でただただ驚いている様子の彼女が、心から憎くてたまらなかった。

【金色のコルダ:柚木×香穂子】
ごめん、絶対なんか変な勘違いしてる。これだけ消したい…

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七色の空

 ねえ、虹の元を見てみたい。
 自分がこの場所に縛られる前に、自分の両親にそう言ったことを覚えている。
 でも、自分が幼すぎたから、もう少し大きくなったら行こうと言われた。楽しみだった。それだけが。
「ねえ、吉乃さん、行ってみたいところってある?」
 今まで闇の中に閉じ込められたも同然に、この地に縛られていた俺には眩しいくらいの笑顔できらが言う。
「吉乃さんの行きたいところ、全部行こう!」
 一番最初に望んだのは、きらの隣。じゃあ、次は?次。考えていなかった。
「行ってみたいところねえ・・・」
 どこでもいいよ、とわくわくしているのが簡単に分かる声音で急かされる。
「じゃあ・・・」
 じゃあ、虹を見に行きたい。あの大きな空に掛かるアーチを、どこまでも追って行きたい。
 少し驚いたようにした後、破顔して頷く。
「行こう、私も見たい」
 こう言ってくれる彼女だから、俺はここから解放されたんだろう。

【緋の記憶:吉乃×きら】
何と言われようと、分かりやすい感動でよかったじゃないか吉乃ルート。と主張。

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百面相

「なんて顔してるんだ」
 さきほどから「うーん」とうなっているヒトミに、呆れた声が出てしまう。
「一之瀬さん!こんにちは」
 難しい顔をしていたと思ったら、今度は子犬のような笑顔。
 感情の起伏が相変わらず大きい。
「で、何やってたんだ、お前。凄い形相だったぞ」
「え、そうですか?」
 今度は、驚いた顔。
 あまりにも表情がくるくる変わるから、
「お前、もう少しそれをどうにかしろ」
 むにっと頬をつねる。
 百面相も面白いが、だからって面白すぎて思わず噴出してしまいそうだ。

【ラブレボ!!:一之瀬×ヒトミ】
一之瀬はホントツンデレすぎるから!もう少し分かりやすく!!

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見えない壁

「大丈夫だよ」
 ほら、また。いつも笑顔でかわしていく。
「私がついているから」
 そう言って、笑顔で守ってくれる。
 それでも、見えない壁が私たちを隔てていて。
 分かってる、亮司さんは姉さんの恋人だから。
 分かっているのに、どうしてこんなに苦しくて、切ないんだろう――。

【翡翠の雫:亮司×珠洲】
亮司のこと好きすぎて、シリアス以外書けないんだぜorz

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タイムオーバー

 間に合わなかった。
 伸ばした腕が、指が、空を切った。
 発した声が、名前が、ただ虚しく空に消えた。
 私が死ぬはずだった瞬間、代わりに消え去ったのは私を疎ましがっていた人だった。
 いつも厳しくて、優しさが見えないと思うこともしばしばだった人。
 それでも、最後は笑って私が生きる道を選んでしまった人。
「いやあああああああああああああっ!」
 何もいらないから。
 何も望まないから。
 私の命で救われるのなら捨ててもいい。
 お願いだから彼を返して――。

【翡翠の雫:克彦×珠洲】
珠洲が死んで、克彦が生きるEDが欲しかった。克彦が絶望したらどうなるのかが気になる。

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私の18番

「って言われても・・・」
「カラオケ行くでしょ?何歌うの」
 いきなり教室に乗り込んできた菜美はいきなり私がカラオケでよく歌う曲を訊いてきた。いきなり言われても思いつかない。
 あからさまにがっかりしたように、うなだれた。
「うう、今度部活のみんなでカラオケなんだよー。香穂にコーチしてほしかったのに・・・」
「私、歌上手くないよ?」
「なんで!あんた、仮にもコンクール優勝者だよ?」
「それとこれは関係ない」
 ぴしゃりと言い切る私に、恨みがましい視線が向けられた。
 菜美が異様にしつこい性格だって、コンクールが終わってから気付いたことだ。

【金色のコルダ:香穂子+天羽】
天羽のしつこさに笑いと苦笑いとが一気にせり上がってきます。

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過去の未来の現在の

 過去。ずっと微笑んでいた。
 未来。たぶん、ずっと笑ってる。
 現在。やっぱり笑顔が崩れない。

「先輩、笑っていて辛くないですか?」
 一人の女の子が、心配そうに控えめに訊いて来た。
 どうしてそう思うの?僕は笑いたいから笑っているんだよ。
「辛いなら、私が少しは背負いますから・・・!」
 彼女に背負わせることのできない痛みなのは、彼女自身も分かっているはずなのに、そう言ってくれる。
 無理だからといって諦めず、そう言ってくれる。
 だからかな。
 初めて、誰かの前で涙がこぼれた。

 過去。ずっと微笑んでいた。
 未来。たぶん、ずっと彼女の隣で笑ってる。
 現在。彼女を抱きしめて、ただ声を殺して泣いている。

【ラブレボ!!:神城×ヒトミ】
ヒトミと逢わないままの神城だったら前者、出逢った神城なら後者の人生を送るだろうなって。

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−×−=+

「お久しぶりです、愁一・・・」
「兄さん・・・!」
 ずっとお互い相手を気にしていても、立場と過去が引き合わせられなかった。
 苦しんで、悲しみにまみれて、それでも今ようやく再会できた二人。
「これから、全てが上手く行きます、きっと」
 涼の言葉に、きらが少し微笑んで頷いた。
「はい、きっと・・・」
 やっとここまできた。
 もう、きっと二人が別れることはないんだ。
 兄弟の再会に、焦がれてやまない両親との再会を重ねながら、きらは水季の笑顔を見守った。

【緋の記憶:愁一×陽菜】
−同士でしかなかった二人がまた出会えたら、いい方向に行ってくれると信じてる。

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休日返上

 うわあ、マジか。
 ようやく二人きりの生活に慣れて、俺自身もなんとか一通りのことができるようになってきたとき。
「ほおら、隣の家のおばさんが出産で店に出られないって言ってんのよ!手伝うのは当たり前でしょうが!」
 ジャスティーンのこのテンションの高さと、妙に律儀なところをどうにかしてくれ。
 手伝うのは当たり前だなんていってるが、隣の親父が手伝ってくれとでも言ってきたか?
 隣の爺さんが、息も絶え絶えなのに息子の嫁さんのために、わざわざジャスティーンに店を手伝ってくれと頼んできたのか?
 全部お前が勝手に申し出たんだろ?
 思うところが色々あるのに、
「・・・・・・・・・分かった」
 どうして納得するんだ俺!

【レヴィローズの指輪:レンドリア×ジャスティーン】
誰も知らない作品だってものですみません。コバルトです。

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君の為の嘘

「真緒、君も知っているだろう?」
 ごめん。君を裏切るような真似をして。
 君がこの場にいたら、もしかしたら言葉に詰まってしまうかもしれない。
 でも、君は今、蔵の中だ。だから、詰まらずに言える。
「俺が愛しているのは、ずっと真緒だけだって」
 違う。この言葉を言いたい相手は一人だけ。目の前の真緒に言いたいわけじゃない。
 彼女をここまで追い詰めたのは、きっと自分だ。
 自分が心から真緒を愛せなかったから。
 それでも。世界が滅ぶと最初から分かっていても。
「信じてくれ、私が君しか見えないのは分かってるだろう?」
 世界が滅ぶと分かっていても、きっと珠洲以外愛すことはなかっただろう。

【翡翠の雫:亮司×珠洲】
亮司の言葉は嘘だと分かっていても辛いものがあったなあと思い出した。

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馬鹿ップル

「加地、お前恥ずかしいこと大声で言うな」
「谷たちこそ、恥ずかしいでしょ?僕だって言えないよ」
 呆れたように谷が窘めると、心外だと言わんばかりに加地が言い返す。
「だいたい、日野だっていつも苦笑いじゃないか」
「だったら二人でいつも幸せそうなそっちこそ、バカップルって言うんじゃないの?」
「う・・・っ」
 二人のやり取りを聞きながら、土浦はそっとため息をついた。
 お前ら4人揃ってバカだから気にするなよ。

【金色のコルダ2アンコール:加地×香穂子+谷×東雲】
誰が馬鹿ップルって、この2つのカプがありえないほど馬鹿だった。恥かしい!

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一目惚れなんて信じない

「ねえ、加地君」
「なに?」
 香穂子が席を立った隙に、天羽が加地に話しかける。
「加地君は、一目ぼれって信じる?」
「一目ぼれかあ・・・」
 うーんと唸って、少し申し訳なさそうに苦笑した。
「ごめん、あんまり信じないかな」
「加地君が!?」
「うん」
「え、だって香穂には一目ぼれじゃ・・・!?」
 天羽の言わんとしていることがようやく分かって、ああと納得する。
「僕は、別に香穂さんの外見に惚れたわけじゃないしね。もちろん、僕には充分すぎるほど魅力的だし、僕相手じゃなくても香穂さんに本当の意味で釣り合える男なんていないって思ってるけど」
 さすがにそれは言いすぎだと言いたくなった天羽だが、加地には通用しないのは分かってる。
「僕が一番最初に香穂さんを意識したのは、ヴァイオリンだったよ。それは酷いって言われるかもしれないけど、ヴァイオリンの音色がなかったら、僕は香穂さんに出会わないままだった」
 きっと分からない人には絶対分からない感覚。それでも、分かる人もいるだろう。
「音はその人自身を映して響くものだから。だから、僕は香穂さんを追いかける気になったんだ」

【金色のコルダ2:加地×香穂子】
一目惚れは信じなくても、一聴き惚れは信じる加地だよな、と心底思った。

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男の浪漫

「ケーキを奢ることが?」
「そう、火原先輩は言ってましたよ?」
 デート中、ふと立ち寄った公園で海を眺めながら、ケーキとロマンについて語っていた火原先輩の話になった。
「ふうん? 俺にはわからないけどな」
 信じられないことに、草の上に自分の着ていたコートを敷いてくれて、その上に二人で座っている。うわあ、柚木先輩ってこういうことできたんだ。
「でも、男のロマンって一般的にはそんなくだらないところにはないと思わないか?」
「え?ケーキ食べられるのは幸せですよ?」
「女の思うことと、男が思うことが一緒なわけないだろ」
 ないだろと言い切られても分からない。
「たとえばさ、」
 そう言って、いきなり私の視界が反転した。
「え、ちょ、周り家族連れとか・・・!」
「そんな中ででも、キスくらいなら許されてると思わない?」
 思わない!の言葉は、あっさり封じられた。

【金色のコルダ:柚木×香穂子】
人前では抱きしめもしないと言い切っていましたが;(でもキスしてたよな!)

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以心伝心

 ハーヴェイ!
 心の中で何度も何度も、泣きそうになるのを堪えながら呼び続けた。
 現実の彼は、ぼうっとして遠くを見つめるばかりでも、記憶の中の彼は無表情の中に感情が見えた。
 だから、何度も声が枯れるまでずっと呼び続けた。
「ハーヴェイ・・・」
 ぐったりと眠るハーヴェイの横で、今晩も横になる。
 ハーヴェイ、大好きだよ。この心は伝わってる?
 私の勘違いかもしれない。
 それでも、私がハーヴェイを想って手を握るたび、彼の横顔に私への感情が戻る気がする。
 私の思い過ごしなはずなのに。
 私の心は伝わっている気がして、ハーヴェイの答えは表情でも言葉でもなく、手から伝わるこの温度な気がしてしまう。

【キーリ:ハーヴェイ×キーリ】
ハーヴェイ×キーリが書けて、なんかものすごく自己満足でも幸せだった(笑)

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カラフルな夢

 いろんな夢があった。
 お花屋さん、ケーキ屋さん、おもちゃ屋さん。
 思い出せばもっとあった気がする。
 でも、
「でも?」
 首をかしげて、ただただ不思議そうに訊いてくる彼に、笑顔がこぼれる。
「今は、お嫁さんが一番だなって思ってる」
 いつも押し気味の彼には、こういう不意打ちが一番効くんだと最近分かった。
 でも、色んな夢を見て、最後に見つけた夢が一番平凡だけど、きっと私にとっての最高の夢だよ。

【ラブレボ!!:華原×ヒトミ】
カプ言われても絶対分からないな。これ。

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恋人と親友

「ねえ、香穂って土浦くんと付き合ってるんだよね?」
「・・・う、うん?」
 大真面目に改めて訊かれると恥ずかしい。付き合ってる、はず。
「でも、あんたたち見てると、親友以上に見えないんだよね」

「なんて会話があったんです・・・」
 香穂が思いっきり沈んでいたから何かと思えば。天羽のやつ、そんなこと言ってやがったのか。
 まったく、毎度毎度亀裂を作ってくださることで。
「私たち、ちゃんと付き合ってる、よね・・・?」
 この冬、寂しがらせるだけ寂しがらせて、不安にさせたことがどうしても思い出される。またあれの二の舞になるのだけは勘弁だ。
「当たり前だろ?」
 隣に座っていた香穂の肩を抱き寄せて、そのまま唇をさらっていけば、
「・・・!!!」
「好きでもない奴と付き合うわけないし、友達だと思ってる奴とこんなことするほど悪趣味じゃない」
「視線逸らさないで言ってくれれば完璧なのに・・・」
 それは無茶な注文すぎる。

【金色のコルダ2アンコール:土浦×香穂子】
土浦は素で赤面ものやらかしてくれると信じてるよ!

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現在進行形

 ごめんなさい、好きだった。でも、もう耐えられない。
 そう言われるのは時間の問題だと思っていた。分かっていた。
 待ってくれとは言えない。考え直してくれとは。
 松川さんだったら、きっとあいつを泣かせることはないだろう。大事に真綿に包むように扱うに違いない。
 それでも、あいつが松川さんに笑顔を見せるたび、あいつが松川さんに「好き」と言っている姿を想像するたびに思い出す。
「一哉くんが一番大事だから」
 今はもう過去形でしか語られない言葉に、ふと喉の奥が痛んだ。

【フルハウスキス2:松川×むぎ←一哉】
現在形で語られて「いた」こともあったんですよ、と改めて。

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ダイヤモンドは永遠の輝き

「本当にダイヤですか・・・」
「何か問題でも?」
 なぜこんなときにまで、そんな態度なんですか。そう詰め寄りたくなってしまう。
 たしかに、先日のデート(だと信じている)で、「今度のコンクールで優勝したらダイヤの指輪を贈ろうか」と言われた。
 金額の面でそれはありえない話ではないし、この人が気にする値段でもないのだろう。でも、指輪はさすがに重過ぎる。しかも高校生にダイヤですか!なんだかんだ言って、どうせからかわれているだけだと思っていた。
「言ったはずだよ、優勝の暁には指輪を、と」
 だからそれを守ったまでだ、だそうだ。
 確かに嬉しい。でも、これはどういう意味だろう。
 あの口約束だけなら、本当に学院の知名度を上げるために私がコンクールに出場したからだと説明もつけられる。でも、実際にくれてしまった。
 金澤先生なんかとは違って教師じゃないけど、やっぱり色々あるんじゃないかと思う。それでも、くれたのだとしたら。
「・・・期待して、いいですか?」
「期待するのは私の方だ」
「ええっ?」
 驚いて、思いっきり理事長を凝視してしまった。すると、また鼻で笑われて、
「次のコンクールも期待している。・・・次のプレゼントは、私の家へ招待しようか」
 泊りがけでね、と付け足されて思わず絶句してしまった。

【金色のコルダ2アンコール:吉羅×香穂子】
ダイヤ自体、ほとんど関係なくてすみません。理事長はエピローグが最強すぎる。

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ラヴコール
『モーニングコールしてもいいですか?』
 数日前の電話で、いきなりそう切り出した香穂子に思わず吹いた。
「お前さん、何をいきなり・・・」
『一言でもいいから、毎日話したいんです、前みたいに』
 治療の為に渡米して、少なくとも香穂子の3年の夏休みまでアメリカに滞在する予定になっている。
 教師と言う立場上、香穂子には、ただでさえそこらの男子生徒とは違って甘い思いなんてさせられない。しかも、今は物理的距離が離れすぎている。
 そんな負い目があったから。近くにいたら絶対に断るはずの申し出を、よしとしてしまった。

『おはようございます、先生』
「ああ、おはよう」
 たぶん、授業が終わってすぐだろう。やたらと朝早い時間から電話が鳴った。もちろん、香穂子からだというのは分かってる。
「それにしても、日野は毎日よく掛けてきてくれるな・・・」
『迷惑、ですか?』
「いや、そういうことじゃなくて!」
『ならよかったです。今日も先生の声が聞けたし、ヴァイオリンの練習してきますね』
「おう、頑張れよ」
 それから少し間があって、なにか決意したように少し堅い口調で言われる。
『今日弾くのはショーソンの「恋の歌」にするって言ったらどうします?』
 からかっているとしか思えない選曲に、思わずこめかみを押さえてしまった。
「大人をからかうもんじゃない」
 これは本当にモーニングコールなのか。朝からいきなりの選曲に頭が痛くなった。

【金色のコルダ2アンコール:金澤×香穂子】
「恋の歌」を探し出すまでに1時間かかったなんてそんな・・・。

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僕ら記念日

 僕たちが出逢ったのは、柏木ホームに僕が入所した日だった。
 年下とは思えない快活さで、僕をみんなの仲間にいれようと奮闘してくれた彼女に、彼女と手塚の監視という役割を忘れそうになった。
 それでも、兄に会うたび自分の立場を思い出して過ごした数年。
 ずっとこんなときが続くなんて思ってなかったけれど、あまりにも唐突だった。
 彼女は僕ではなく一謡を選んだ。剣道の師範の方を。
 だから、これが最後。「柏木好春」と柏木きらで会う最後だ。
「ちいねえ、大好きだったよ」
 どう転んでも、彼女とこんな風に笑いあいながら過ごすことはないだろう。
 だから、最後の今日。勝手に記念日にした。ちいねえは知らなくていい。僕だけが覚えてる。
 大好きなんて言葉じゃ追いつけないくらい愛してた。ずっと君だけを見てた。
 さよなら。ちいねえ。「柏木好春」。

【緋の記憶:涼×きら←好春】
最後にきらに会った日、好春はこのくらい悲愴な思いをしていてくれたらとの願望で。

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フェミニスト

「フェミニストぉ?」
「ッて言うんじゃないですか、吉乃さんみたいな人のこと」
「ええ〜?そお?」
 いつもの喫茶店で、いつものように中国茶を注いであげていたら、いきなりそんなことを言われた。
 フェミニストと言われても、ぴんと来ないのだが・・・。
「なんでいきなりそんなこと思ったの、お嬢ちゃんは?」
「う・・・別に、慣れてるな、って思ったから、ってだけで・・・」
 ばっと目を逸らして、ぼそぼそと言うきらに堪えきれず吹いてしまった。
「こんなに面倒見てあげるのは、お嬢ちゃんだけだよ」
 過去に確かに「恋人」と言える人間はいた。でも、今はきら一人。
 フェミニストと言う言葉で誤魔化しながらも、そっとこちらの反応を見ていたのは間違いなさそうな可愛い恋人にまた想いが募った。

【緋の記憶:吉乃×きら】
遊び人っぽい吉乃がきら一筋になってくれたのが、とても嬉しかった。

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LOVE≠LIKE

 信じるな、私。
 目の前の人間は、恋愛を売ってる人種なんだから。元がなんであれ、そのことに違いはない。
 そう言い聞かせるのに、
「今日、アフターはカラオケでいいか?」
 私にしか見せないって分かる口調と表情でそんなことを言ってくるから。
 違う。これはカズマを好きになっちゃったとかじゃない。断じて違う。ただ昔の同級生が懐かしくて、好感を少しだけ持ってる。ただそれだけ。
「どうした、明里?」
 覗きこむカズマにいっそう胸が高鳴って。
 お願いだからこれ以上、本気かどうか区別がつかなくさせないで。

【ラスト・エスコート:カズマ×明里】
内容が明らかにタイトルと違っていますが、許してくださいorz

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初恋

「初恋だったらよかったのに」
「バカ。あんな子供が好きだなんだなんて恋愛感情持つかよ」
 そう言って陽菜が残念そうに口を尖らせるのも無視して、何度目かの会話を終わらせる。
 折に触れ、こんな風に言ってくる陽菜にため息が漏れる。
 あの時に好きになってなければいけなかったのかと、責められているようだから。
「違います。聞いてますか?拓哉先輩の初恋が私だったらいいのに、ってそういうことです」
 あのときじゃなかったら、絶対誰かに初恋持って行かれてる。そう、憮然としながらいう陽菜が可愛くて、思わず体ごと抱き寄せた。
「初恋じゃなくても、ここまで好きになったのは陽菜が初めてだ」
 それだけじゃだめなのか?
 今度は、思いっきり睨み付けられた。
「いきなり本気な声出して、動揺させないで下さい・・・!」
 訳の分からなさと話の通じなさに、ただただ肩を下ろすばかりだ。


【水の旋律 協奏曲:拓哉×陽菜】
初恋って言うドラマよりも、素直に恋人同士な拓陽が好きだと実感しました。神。

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女の敵

 女の敵?もちろん、誰に対しても平等に優しい態度を取る人間よね。
 大学のキャンパスで、珍しく香穂子、天羽、都築、そして王崎が揃ったとき。天羽がふと、都築に尋ねた問いに、都築はきっぱりと答えてくれた。
「えー・・・っと」
「いや・・・知ってましたけど、やっぱり随分ときっぱりおっしゃるんですね・・・?」
 フォローを入れたい香穂子と、地雷を完璧に踏んでしまったと悟った天羽で必死のフォローだ。どこもフォローになっていないが。
「あら、だって言わなきゃ分からないでしょう?私の可愛い後輩がそんな男に苦しめられると思うと腹が立ってしかたないもの、ねえ?」
「あはは・・・そんなつもりは・・」
 目が笑っていない笑顔で王崎を見据える都築に、ただただ苦笑いし続けるしかない王崎だった。
 さすがに、高校時代から言われ続けてきたことだけに、多少なりとも自覚はしているらしい。
「その言葉で許されると思ったら大間違いよ」
 笑顔から一転、真顔の都築に場の空気が凍りついた。

【金色のコルダ2アンコール:王崎×香穂子】
こんなイベントがあるって信じてたんだけどなあ・・・。

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ブルームーン

 だから、僕が好きなのは日野さんだけなんだよ。

 もう何度目か分からない告白を丁重に断りながら、心の中でどうしてもボヤいてしまう。
 確かに、彼女の音楽に一番に惹かれたのは間違いない。今でも、彼女以外に理想の音なんてないと思っている。
 そして、こうして彼女の近くにいて、彼女自身を好きになった。
 僕は自分の気持ちを偽れるほど器用じゃないから。
「ごめん、他に好きな人がいるから」
 ありきたりで、申し訳なくなるほど使い古された言葉だけど、これ以外言いようがなかった。
 だからと言って、自分に勝算があるかと言われれば、どう考えてもなさすぎる。
「ねえ、今日はどこで練習しましょうか?」
「うーん、香穂ちゃんの好きなところでいいけど・・・」
 隣にはもう席が空いてないから。

【金色のコルダ2:火原×香穂子←加地】
「できない相談」って意味があると知って、思いついたのがこの構図でした。

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Second Kiss

「・・・」
「香穂さん・・・?」
「え、な、なに!?」
 この前まで、抱きついてきたり、いきなり手を握ったりしてきた人とは思えない勢いで、僕から軽く3歩は離れた。
「いや、大したことじゃないけど・・・避けられてる、僕?」
「そんなことないよ!」
 全力否定が、逆に肯定してしまっていることには気付いていないらしい。
「何、熱でもある?大丈夫?」
 1歩近づけば、2歩離れられる。もうここ1週間はこれだ。理由は何となくわかるけど。
「あの時のキスが、いけなかった・・・?」
「うわああああ、大声で言わないで!」
 これ以上紅くなれるのかと言うところまで、顔を紅くして思いっきり目線を逸らされた。
 本当に、あのまま流されて取り返しのつかないところまで入ってしまわなくてよかった、と自分の自制心に妙に感謝してしまった。あのとき、最後までやってしまっていたら、きっとこんなものじゃ済まなかった。
「ふふ、香穂さん照れてるの?」
「・・・・・っ」
「こっち向いて、香穂さん」
 少し強引に顎に指をかけて、上を向かせる。
「!」
「ゆっくり慣れてくれればいいから、ね」
 せめて、キスくらいは慣れていなくちゃ次なんてできないから。

【金色のコルダ2アンコール:加地×香穂子】
キスは火原しかないと思ってたのに、加地も柚木もあったのかYO!

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夫婦漫才

「こら、そんなにくっつかない」
「なんでだよ?久々に仕事がないときくらい、明里補給したいって思うのが普通じゃねーのか?」
「普通じゃない!いっつも仕事中でも関係なく電話もメールもしてくるでしょ!?」
 料理中だというのにお構いなしに抱きついてくる要にうんざりした声を上げる。
「じゃあ、明里は寂しくないって?」
 やばい、そう第六感が告げるような声音だった。一気に機嫌が悪くなった。
「そんなことないわ、嬉しいって思ってる。要さんは仕事で忙しいからあまり家に帰って来れないし」
「じゃあ、いいよな!」
 何がいいのか。それはこの時間と、要の笑顔を見れば嫌でも分かってしまうわけで。
 せっかくの休みにこれ以上、ケンカなんてしていたくないと考えれば、頷くしかなかった。

【ラスト・エスコート:炎樹×明里】
どう見ても、馬鹿な夫婦のケンカですみません。

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ハニー

「君は明里って名前が好きかい?」
「好きかって・・・別に嫌うほどの名前でもないでしょう?」
 平凡な名前。だいたいどこの学年にでも一人はいるんじゃないかというくらいの名前だ。平凡な名前が嫌だという人間以外、大して嫌う名前でもないだろう。
「そうだね、僕も好きだよ」
 ニコニコと相変わらずの笑顔を浮かべる彬に、はあと相槌をうつしかない。だからなんでしょうか。
「でも、他に素敵な呼び方があると僕は思っていてね」
 短い付き合いでも分かる、ろくでもないこと考えてる。
「いえ、あの、彬?私は自分の名前気に入って・・・」
「『ハニー』はどうかな、僕のハニー?」
 さっそく変わってるー!?
隣の席に入っていたカズマは、うっかりその会話で噴出しそうになるのを必死に堪えていた。

【ラスト・エスコート:彬×明里】
タイトルとカプで内容読めたかもしれませんが・・・。

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抱き枕

「・・・ん」
 腕の中に重さが感じられずに、微かな冷たさだけだった。
 その代わり、見覚えの少ない部屋にいた。少しぼうっとして気づいた。
(・・・・・・・珠美の部屋か)
 ここに住むようになってから少し経ったが、未だに慣れない部分が多い。まだこの少しだけ少女趣味が入った殺風景な部屋には慣れられない。
(慣れたものもあるけどな)
 腕に微かに残る感触にふと頬を緩めた。こんなややこしいことに巻き込まれた珠美には申し訳なくて言えないが、ロゴスを解放できる人間が珠美でよかった。
 もう学院へ行ってしまったであろう人物を思い出して、柄にもなく腕が少し熱を持った気がした。
 優子さんを想っていた時のような辛さはない。けれど、あの時とは比べ物にならないほどの焦燥感だけはある。
(・・・あれだけの人間に好かれてるヤツだしな)
 自分以外の婚約者候補を一人ずつ思い出して、ため息がこぼれる。何で自分はこうもやっかいな恋しかしないのだろうか。

【花宵ロマネスク:葵×珠美】
理事長の気遣いが嬉しかった時期ですね。今も嬉しいですが。

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寝不足

「あ、柚木ー!日野ちゃーん!!おはよう!」
「火原。おはよう、今日も朝から元気だね」
「あは、おはようございます、火原先輩」
「そういう二人は疲れてる?」
 大学の正門前に、高校時代と変わらず通り乗りつけた黒塗りの車からは柚木と日野ちゃんが降りてきた。柚木は違う大学なのに、毎朝日野ちゃんを大学まで送りに来ている。
「あは、は・・・ちょっと寝不足で」
 微かに視線をそらしながらも、日野ちゃんが答えてくれた。
「・・・ああ、火原には少しだけ先に伝えておくよ」
「なに?」
「僕たち、ようやく婚約だけはしてね。昨晩はその報告を僕の実家の方にしてきた」
 今晩は日野ちゃんの家に挨拶だと言う。
「へえ、おめでとう!早かったんだな!それでお祝いか何かで寝不足?」
「火原、婚約なんてめでたいことがあった翌日に寝不足だったら何があったかは察してほしいな」
「へ?」
 じゃあ僕はもう行くから、香穂子は夕方いつもの時間ここで待っているんだよ、それだけ言って戻っていった。
「え・・・今のって・・・?」
「ああ!私1限目から講義入ってるので!」
 勢いよく走っていく日野ちゃんに、ようやく意味が分かった。
「うわあああああ!俺、あんなこと日野ちゃんに聞くなんて!」

【金色のコルダ2アンコール:柚木×香穂子】
エピローグで思いっきり柚木家に馴染んでた香穂子だったので、つい・・・。

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傘の水滴

「って、うおっ」
「え?青山先輩・・・?でしたよね」
「日野?」
 昇降口でいきなり水を被ったと思ったら、隣にいたことになぜ気づかないと思うほど紅い髪が印象的なヴァイオリニストが、先ほどまで差していたであろう傘を畳んでいるところだった。
「あ、掛けてしまいましたよね!?いやーっ、すみません!!」
「あ、いや、いいよ、気にすんなって」
 間違っても覚えていてくれたから、それだけでいいなんてことは言えない。
「いえ、でも・・・ええっと、はい、これ使ってください」
 学生鞄の中からハンドタオルを出してくれて、押し付けられる。
「本当にすみません、染みになってしまったようだったらクリーニング代も出しますから言ってください!」
 たかが雨だけでなにを大袈裟に。呆れてしまうが、向こうが申し訳ないと思っているのなら、
「クリーニングなんてどうでもいいけどさ。今度、俺に付き合わない?」
「・・・はい?」
「日野ってさ、よく公園でヴァイオリン弾いてるだろ?来週、俺、隣で聴いてていいかな」
 数日前に火原の後輩だと言うだけで声を掛けてみただけの女の子だったはずなのに、毎日ヴァイオリンを楽しげに、充実した笑顔で奏でる姿がいつの間にやら好きになっていた。
 これがどういうことか分からないほど鈍いつもりはない。だから、
「いいだろ?」
 少しくらい強引だって、いいと思うんだ。

【金色のコルダ:青山×香穂子】
青山は押しが強いイメージがあるんですけど、どうですか!(「!」って言われても!)
それ以前に、強引なのは私の話の進め方でした。

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拝啓

「堅い、か・・・?」
 手紙なんて柄じゃないのは分かっているが、出してほしいと甘えられたら、出さないわけには行かなくなった。アンサンブル頑張ったご褒美欲しいだけなのにと拗ねられたらなおさらだ。
「・・・・・・・・・・・・・堅いよな」
 夏休み、長い休みで、しかもお互い大学進学のためにすれ違う日々だ。これで誤解が生まれたら別れるどうこうまで話が行きかねない。
 頼まれたとおり手紙を書いてはみたが。自分の手紙の冒頭と末尾に並ぶ単語に嘆息する。「拝啓」「敬具」。
「・・・月森じゃないんだから」
 あいつだったら書きかねない。だったら、
「『前略』『草々』・・・?」
 どっちもどっちな書き出しに、やっぱり手紙は無理だろうと本気で諦め、さっさとメールで謝ることにした。

【金色のコルダ2:土浦×香穂子】
ネオフェスだかなんだかで、この手のメッセージがあったみたいですけど;

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策士

『・・・我慢したと思わない?』
「いや、お前、そんなところまで俺に語られても困るんだが・・・」
 加地から疲れたような電話が入ったのは、夜も10時を余裕で回ったときだった。話を聞いてみれば、今日は日野とのデートで手を握られたり、なんだりで精神的に疲れまくった、と。
「だからってお前・・・いい思いができるって発言は、それは・・・」
『・・・うん、さすがに失言だったなあとは思う』
 いくら日野が積極的に出てきたからって、いきなりその発言は引かれるだろ。
『もっと上手くできるって思ってたんだけど、ね』
 香穂さんを前にしたら、やっぱりいつまで経っても冷静になれないねと自嘲する加地に改めて驚く。
 俺や柚木先輩といるときの加地って言えば、子供っぽいところがあっても、どこか読めないところがあるのに、日野のこととなったら裏表なんて全くなくなってる。
「俺も、もう少し上手くやれるだろって思ってた」
『言わないでよ』
 本気で情けない声を出す加地に、本当に普通の高校生じゃないかと今までの見方を少し改めた。

【金色のコルダ2アンコール:加地×香穂子】
あまりの純情っぷりに動揺させられたと思ったら、失言に尚更揺さぶられたよバカ!

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被害者

「あはは、そんな話もありましたね」
「笑い事じゃないだろう。私には意味が分からなくて、随分苦い思いをした」
 本当に嫌そうな顔をした貴人さんに、また笑いが零れてしまう。
「だって、本当に私たち被害者なんですよ、いっつも貴人さんには誤魔化されてますし」
「だから、私はまだ具体的な罪状を聞いていないんだが?」
 もう随分前のことなのに一つのことに未だにこだわっている貴人さんが、学校で見せている顔とは全然違っていて。
 やっぱりこの人を好きになってよかった。好きになってもらえてよかった。
―――拓哉先輩がどう思っていようと、私は九艘になれてよかったと思っている。
 だから、先輩は気にしないで。気に病まないで。被害者だなんて、こんなに幸せなのに欠片も思ってないですから。

【水の旋律:貴人×陽菜】
あれ・・・?拓哉+陽菜のSSSになってしまった・・・?

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ひらひら落ち葉

 季節は巡って、あの人と知り合ってからもう1年が経った。
「日野くん、すまない、遅れたね」
「いえ」
 今日も数週間に一度のデート(だとは認めてもらえないけど信じてる)に誘われた。どこに行くのかなんて当日にならないと分からなくて、毎度それで驚かされている。
「そうだ、先日のコンサート見事だったよ」
「あ、ありがとうございます!」
 理事会の会合前に、わざわざ理事会のためだけに講堂でコンサートを開かされていた。嫌々やったわけではないが。
「開いてもらったお礼だ。今日は好きなだけ君に付き合おう」
 お礼なんていらない。今、とりあえず欲しいのはこの現状を説明する言葉だ。これはデートじゃないの?恋人だなんて思ってもらえるとは期待してないけど、でもこの関係はなんだろう。
「・・・・・・・・・・・・・今日は遅くなっても平気かな?」
「え?」
「紅葉でも見に行こうか」
 いきなりなんですか!?こんな突拍子もないこと言う人だっけ?
「嫌ならいつも通り、コンサートと食事だけにしてもいいけどね」
「もちろん、紅葉狩りでお願いします!」
 今はまだ分からないけど、日曜日に誘われる相手が私だと言うことに、少しだけ自信を持ってもいい気がした。

【金色のコルダ2アンコール:吉羅×香穂子】
落ち葉の辺りに紅葉を感じてくださると嬉しいです。理事長難しすぎる。

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ターゲット

 日野先輩発見!
 今日は運がいい。カフェテリアでアイスを冬海と一緒に食べているところも見れたし、体育でグラウンドを走っている姿も見れた。しかも、今度は練習姿を見れるなんて!
「あれ、茅野くん・・・?」
「え、あ、先輩、練習お疲れ様です」
「ありがとう」
 これ以上あるのかっていうくらい、可愛い笑顔でにこっと笑いかけられる。
 うわーうわーっ、春のコンクールでも遠くで見ているだけ、冬のコンサートではコンクールメンバーだけでアンサンブルやっていたから近づくこともできなかった。
 でも今は違う。日野先輩のアンサンブルメンバーになれて、きっと日野先輩がコンミスを務めるであろうオケのメンバーにもなれている。なんて幸せな日々なんだ!
「香穂さん!」
 後ろから柔らかな声がかかる。・・・声で誰だかなんて分かる。あいつだ・・・。
「加地くん!」
「ごめんね、遅れて。今日は森の広場でいいかな」
 明らかに日野先輩しか視界に入っていない様子で、加地先輩はニコニコと笑っている。くっそー、彼氏だからって!
「うん。・・・あ、茅野くん。ごめんなさい」
「え?」
「コンサートでの曲目なんだけど、違う曲に変更しようってことになって。だから、茅野くんはオケの方の練習曲を頑張ってもらいたいな、って・・・」
 えええっ、マジで! 変更した曲目には全部ヴィオラパートがあって。と言うことは、加地先輩のための曲目変更に違いない。
 結局なんだ。俺は先輩に縁がないのか。

【金色のコルダ2アンコール:加地×香穂子←茅野】
茅野の台詞に妹が萌えたらしいので、その記念に。茅野、お前もストーカーか!

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止まない霧雨

 ずっと家族が嫌いだった。筆頭は叔父。名前に同じ漢字が使われているだけで吐き気がしそうだった。
 両親もただ黙しているだけ。なぜ。俺たちが一族からこれほど理不尽な扱いを受けているのは、あの人の存在のせいだというのに。なぜ恨まない。受けなくていいはずの謗りを、安曇だというだけで受けることが許せない。
 そう思っていたときの俺は、いつも毅然としながら、どこかで確実に疲れていた。何度も何度も打ちひしがれ、疲れ果てていた。
 どれだけそうしていても、目の前を覆う霧は晴れなくて、ますます濃くなり、雨のようになりながら覆い続ける。このままこの霧雨は晴れないと思っていた。
『泣いてもいいんだよ』
『その方が先輩らしいよ、『俺』の方が』
『先輩の負担になるのは分かってる、でも、諦めたくない!』
 きらの一言一言が、救ってくれた。
 きらが傍にいてくれたから。
「だから霧雨は晴れたんだろうな」
 唐突にそう言った俺に、訝しげな視線を向けながら、
「なに・・・?いきなりの独り言って、怖いよ、先輩」
「うるさいっ」
 今日もこんな会話しかしないけどな。

【緋の記憶:安曇×きら】
ずっとケンカップルでいてくれと切に願ってる。幸あれ!

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枯れてしまったサボテン

「・・・何をそんなに落ち込んで・・・」
「・・・今、絶対似合わないって思ったでしょう!?」
「怒るか落ち込むかどっちかにしろって!」
 朝からどことなく落ち込んでいて、昼になってもそれは変わらないようだった。
 加地に聞いても、分からないという。
 って、いきなり怒鳴ってばかりじゃダメだろ、俺。この前のケンカで充分すぎるほどに分かったじゃないか。
「・・・悪い。怒鳴って。・・・で、なにがあったんだよ」
 普段、他の女なんかと違って物怖じせずに大概なんでも言ってくる、と思っていた香穂子でも、俺の知らないところで我慢してることや、言えないでいることが多かったことは分かった。でも、すぐに気づけるようになることなんてないから、少なくとも気づいたときだけでもと思っている。
「・・・・・・ごめん、心配かけて。昨日、育ててたサボテンが、枯れちゃって・・・」
「サボテン!?」
 サボテンが枯れたくらいで、俺とのケンカの時より分かりやすい落ち込みしてたのかお前!
「だって、サボテンだよ!?不思議じゃない!水がなくても育つって思ってたのに、枯れちゃったんだから」
「一切やらなかったら、そりゃ枯れる!」
 さすがに怒鳴り声を抑えることはできなかった。
 なんかもう・・・・こいつの中で、俺の位置ってどこにあるんだ。

【金色のコルダ2アンコール:土浦×香穂子】
サボテンが枯れるということに衝撃を覚えたのは私だけですか?
土浦の時の落ち込みが見えないものだったのは、香穂子が土浦に気を遣っていたからだと思いたい。

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視線の先

 何で教えてくれなかったの?
 責めるような口調に、押し黙るしかなかった。そして、謝ることしか。
 俺が香穂子から離れていくと言うのに、寂しいと思う心は止められなくて、数ヶ月先のことは考えもせず、教えもしなかった。香穂子と二人で過ごす、楽しい思い出だけを持っていきたかったから。
 その結果がこれか。泣きそうにしながら、俺に詰め寄った香穂子に、俺はただ謝るしかできなかった。
 でも、ようやく分かった。見るべきは、目先の寂しさなんかじゃなかった。それではいけなかったんだ。
 いきなり目の前から去っていかれることになる香穂子をもっと思いやるべきだった。
「すまなかった・・・」
「もう、これからは隠し事はしないで・・・」
 怒らせたのに、まだ「これから」と言ってくれる香穂子を、思わず抱きしめる。
 離れてしまうけれど、不安にさせることも今まで以上だろうけれど、俺には君だけだから。
「俺の音色の先はいつも君だ」
 そして、俺がこの先見つめ続けるのも君だけだから。
 どうか、この想いだけは信じていて欲しい。

【金色のコルダ2アンコール:月森×香穂子】
月森の気持ちもよく分かるけど、いきなり教えられるのは辛いだろうよ・・・。

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Number oneでOnly oneさ

「え、僕にとっての日野さんの存在?」
「そう!このアンサンブルで一番頑張ってたのは、日野ちゃんだからね。みんなにインタビューしてるの」
「もちろん、この世で一番輝いていて、誰にも代わりはできない、たった一人の存在かな」
 笑顔でさらっと答える加地に、天羽が満足げに頷いた。
「で、それを聞いた土浦くんはどう思う?」
「天羽、お前は黙ってろ」
 言葉は天羽にかけられて、加地は無言で絞められた。

【金色のコルダ2:土浦×香穂子】
これが書きたくて始めたこの50題です。書けてよかった!

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長すぎてすみません。
上でも言ってますが、やりたかったのは50番目のです(笑)
◇ 塩と胡椒は必須です。 〜夢見る作者に50のお題〜
掲載: 08/05/11