例えば、君が笑ったとき。
例えば、君が泣いたとき。
例えば、君が怒ったとき。
例えば、君が悩んだとき。
その全ては、僕に向かっていたよね。
「先輩!具合はどうですか?辛くないですか?」
「大丈夫だよ、心配しすぎだよ。ヒトミちゃんは」
でも・・・と不安げに僕を見上げてくるヒトミちゃん。
それを見る度に、申し訳なさが募る。
ヒトミちゃんは、こんなにも可愛くて、本来なら、こんなに表情を曇らせたりはしない子なのに。
今、ヒトミちゃんの心が曇るのは間違いなく僕のせい。
「具合が悪くなったら、いつでも言ってくださいね!いつでも膝枕してあげます!!」
「膝枕、ね。そうだね、具合が悪くなったら、お願いしようかな。――看護婦さんたちのほうが、先に来ちゃいそうだけどね」
まだまだ僕は病魔と闘わなくちゃいけなくて、治療法も見つかっていない。どういう方向性を持って治療をすればいいのか、それすらも分からない。本当に一寸先は闇のような状態では、外出は許されず、精々、病院の庭に出るだけだった。
「そうですけど。でも――」
久し振りにゆっくり出来るんですから、具合悪くなくてもやりたいです・・・・。
聞こえるか聞こえないか、そのくらいの小さな声で呟く。
こんなとき想う。
愛しい、と。放したくない、と。
同時に、一刻も早く手放さなくては、と。
「ねえ、ヒトミちゃん。今、何か音がしなかった?」
「は?してない、と思いますけど?いきなりどうしたんですか?」
「あ、いや、僕の聞き違い、かな。気にしないで」
「はあ・・・」
納得のいっていないような、その困った表情さえも愛しくて仕方ない。
「じゃあ、膝枕頼もうかな」
「き、聞こえてたんですか!?」
「お願いね、ヒトミちゃん」
ヒトミちゃんを想うたびに、音が聞こえる。
鐘の音が。
祝福の音色――そう想いたい。
どうか、お願いだから。
僕たちの別れを告げる、12時の鐘でないことを、シンデレラの鐘でないことを、心から祈りたい――――