『え?あ、綾人か。わ、悪い、今すぐ出掛けなきゃ行けないんだ。ヒトミが・・・っ!・・・・あ、いや。と、とにかくだなっ、後で掛け直してくれ!』
電話に出た鷹士さんは、どこか焦ったように、必死に自分を落ち着かせるような口調だった。
ヒトミ・・・・?
ヒトミちゃんに何かあったんだろうか?
「あ、ちょっと待ってください。何かあったんですか?」
『いや、何でもない・・・・・訳じゃないんだが、とにかく、もう出るからっ!切るな!?』
「そんなに急いで。ヒトミちゃんに何があったんですか」
自分にしては厳しい言い方になってしまった気がする。
でも、ヒトミちゃんに何かあったことを仄めかされて、『ああそうですか、ヒトミちゃんに宜しく』とは言えない。
「急いでいるのは分かりましたけど、何があったかくらいは教えてください」
『事故に遭ったんだよヒトミが!死にそうなんだ!!』
「ヒトミちゃんが!?」
血の気が引いていくのが分かった。
目の前が暗くなる。
そうだ・・・・。
僕は自分の病気のせいで気付いていなかった。
人には平等に死が訪れることを。
そして、それは誰にも唐突に訪れるものだということを。
どうして、自分は残していく側で、残される側にはならないなどと思っていたんだろう。
『・・・と?綾人?おいっ、聞いてるのか?』
「どこの病院ですか?」
『え、隣町の・・・・』
「ありがとうございました」
勢いよく受話器を置くと、そのまま病院のロビーを出た。
外に出れば、タクシーが運良く捕まえられた。
病院名を告げる。
病院への道行き。
久し振りに手を合わせていた。
これほど、想っているのに。
これほど、一緒にいたいと願っているのに。
どうして手から零れ落ちていくのだろう。
今までのことは振り返らない。
これからのことも思わない。
ただこの瞬間、君と一緒に生きる、この瞬間だけが大切なんだ―――。
―――例えば君がいなくなったら・・・・・?
いやな考えを振り払ってただ祈る。随分前に諦めた、神という存在に。自分の時だってこんなには祈らなかった。
―――ただ僕のそばで微笑んで・・・・