×
いつも傍にいたい

「お前、本当に鈍くさいな」
「開口一番それなのっ? もう少し心配してくれるとか・・・」
「心配は散々してきたんだが」
 言葉に詰まる珠洲に、ため息が漏れる。
 移動教室中。途中の廊下で蹲っている珠洲がいた。
 コケて膝を擦りむいているらしい。
 どうせ、クラスメイト辺りからの嫌がらせの一つだろう。引っ掛けられたか?
「・・・姉さん。どうしたんだ?」
「陸!」
 ・・・・・そう言えば、ここ、一年の教室の近くだな。
「転んだのか?」
「ええっと、うん。こんな歳になってまでコケてちゃ情けないよね」
 陸にはそうやってあははと笑って見せる。
 陸も心配そうにしながらも、珠洲の手を取って立たせている。
「保健室行こう。歩ける?乗ってもいいけど」
「いいっ、歩ける」
 放っておいたら本当に背負いそうな陸に焦ったらしい。
「ばか、擦りむいただけならいいが、足首でも挫いてたらどうするんだ」
「え?平気だよ、それは」
 考えていなかったのか、また焦ったような返事が返ってくる。
 平気だというところを見せたいのか、ほらねと足首を振る。
「だからやるなって」
 ああもう、どうしてこいつはこんなにバカなんだ。
 ついでに、何度でも言うが鈍くさすぎるだろ。
 今までイジメに遭って来なかったことの方が不思議に思えてきた。イジメを肯定する気なんてサラサラないが。
 珠洲に手を出したこと、死ぬほど後悔させてやる。
「・・・晶?顔怖いよ?」
「え?・・・・・どっかのバカがバカやらかしてるから呆れてるんだ」
 そんな俺たちのやり取りを、隣で陸が笑いを堪えるように見ている。
 それも気に入らない。言いたいことがあるなら言え。
「お前は本当に抜けてるんだから、」
「抜けてる抜けてる言わないでよ」
 不貞腐れたようにフイッと明後日を向いてしまった。
「ホントのことだろ?抜けてるんだから、お前は俺の傍を離れるな」
 何度も何度も言い聞かせている言葉だった。
 それでも、この一言でいつか珠洲に気づかれるんじゃないかと、いつも冷や冷やして、これ以上ないってくらいに緊張する。
 もちろんそれも珠洲の前では杞憂に終わるわけだが。
「転んだだけでしょう?晶は本当に心配性なんだから」
 誰のためにそうなったと思ってるんだ。
 言ってやろうと口を開く前に、とうとう陸が吹き出した。
「姉さん、晶さんも姉さんのことが大切だから心配してるんだ」
「え?」
「バッ、それは玉依姫としで・・・・っ」
 いきなりお前は・・・!
「もちろん、そうだと思ってましたよ。・・・・・・・他に何か?」
「・・・・・・・・・・・っ、何でもない」
 陸も、本当に性格が悪い。
「?・・・守護者だからって理由以外で、晶が私のこと心配するわけないよね」
 別に落胆した風もなく、当たり前のように言われてこっちが少し落ち込んだ。
 確かに、その他大勢の前ではそれなりに冷たくしてるが・・・。
「・・・・・・・そうだな」
 陸。憐れみの目でこっちを見るな。
「うん、足は大丈夫みたい。ほら、陸もちゃんと授業戻るんだよ?」
 そう言って珠洲はすぐに歩き出してしまう。ああもう、今はまだ痛くないだけかもしれないだろ!
「・・・晶さんも素直じゃないから、こうなるんじゃないんですか?」
 陸にだけは言われたくない。
「言いたいことは言わないと、姉さんには伝わらないと思う」
「・・・・・・・・今日はよく喋るじゃないか?」
「・・・そうですか?」
 分からないというように、首を傾げる。
 そんな陸から視線をそらせて、珠洲のうしろ姿に目をやる。
 言いたいことを言わないと。
 俺は守護者だから。この言い訳ができなくなったとき。
 俺はあいつの隣にいられるんだろうか。
「俺があいつに言いたいのは」
「?」
「鈍くさいんだから守ってやるってことだけだよ」
 守護者が言い訳でもいいじゃないか。
 その言葉でしかあいつの隣にいられないとしても、あいつの一番近くにいられればなんでもいいんだ。





以前のものから少し修正。
晶の珠洲大好きっぷりはゲームでも駄々漏れで笑ってしまいました(笑)
いや・・・さすがに陸が珠洲のことを「『女の子』として珠洲のこと好きだった」って言うのは資料設定読むまで分からなかったんですけど・・・。
◇ as far as I know 〜言い換えると〜
掲載: 08/05/11