×
眠れぬ夜にも、星の光が
あなたを照らしてくれますように
最後に会った日の夜。
今までになく綺麗にドレスアップした彼女は、秘書姿とはまた違って輝いているようだった。
どう、声をかけよう。
どう、彼女に謝ろう。
そして――――どうやって、彼女に想いを伝えよう。
伝えていいのかどうかさえ分からない想いだけれど。
彼女から伝えられた想いが、そのまま自分と重なって、額面通りに受け取っていいものだとは思わない。
私が愛していると思っていても、彼女は若い。そして、周りには彼女を支えたがっている男たちもいる。
たとえ彼女が罪を許してくれたとしても、それは甘えてはいけない優しさだ。
庭園を眺める彼女に声をかけた。
振り向いた彼女は、まるで幽霊でも見たかのように目を瞠っていたっけ。
それはそうか。警察へ連行される予定の人間が、なぜあんなパーティに出席しているのか、と。
私自身はパーティに出席しているというよりも、ただむぎさんに会いに行っただけのようなものだが、彼女にしてみればそういうものでもなかったらしい。
本当に驚いたようにしていた彼女が、泣きそうな、それでいてどこか嬉しそうな表情に変わった。
必死に涙を堪えているような表情に、最後まで笑わせてあげられなかったと後悔と苦しさがこみ上げてくる。
彼女と御堂くんの関係は分かっていた。
だからこそ、彼女を秘書に指名したのだから。
もちろん、彼女も御堂くんも私と隆行のつながりも知っていただろう。でなければ、せっかく高校に入りなおした彼女を言われるままに秘書にすることを承諾するわけがない。
お互い、隆行や御堂くんに命じられて始まった関係だったはずなのに。
いつからだっただろう。
気づいたら―――それが一番近い。気づいたときには彼女を愛していた。劇的な何かがあったわけではなく
一人で抱え込んでいた罪の意識と、隆行を止められなかったという後悔の闇に彼女が光をくれた。
一条の光。
そんなものではなくて。
限りなく眩しくて、限りなく暖かくて、限りなく優しくて。
本気でやらなくてはいけないような仕事でなくても懸命にこなして、いつも笑っていて、元気で、見ているこちらが逆に心配になるほど前向きだった。
そんなに頑張らなくてもいいと止めたくなるほどに。
そんな彼女だったのに、わたしのこととなれば話は別だった。
御堂くんのこともあってか、食事の席でも警戒されていた印象がある。最初は気にならなかったその反応も、段々寂しいと思い始めていた。
個人的な機会も、彼女にとっては仕事の一環でしかないのだと。
ほかのことでもそうだった。
数え上げればきりがない。
彼女はいつも笑っていた気がするのに、二人きりの時に笑ってくれたことはあっただろうか。
そう考えると、ほとんどなかった。皆無に等しい。
それなのに私を好きだと言ってくれた。たとえ気の迷いでも、同情でもよかった。
ただただあの時は嬉しかった。
笑わせてあげられなくてすみません。
他の人間なら与えてあげられる温かさを今すぐあなたに与えることは無理で。
泣きそうなあなたに笑いかけることしかできなくてすみません。
あなたに今すぐ触れることはできなくて。
傍にいられなくてすみません。
ただ会う約束をすることすらも困難で。
何から謝っていいのか分からないまま、心の中で全ての思いが押し寄せてきていた。
あの夜を思い出して、ふと笑みが漏れる。
額面通りに受け取ってはいけないと思っていた言葉を、信じていいのだと知れたから。
愛した想いと同じだけ、同じ想いを願っていいのだと知れたから。
結局、別れ際には触れることもできなかったけれど、救急車で運ばれる直前に交わしたキスだけで充分だ。
彼女との想い出を閉じた瞼の裏に浮かべるとと、決まって何かに祈りたくなる。
なんだろう。
ただ、無性に祈りたくなる。
眠れぬ夜にも、星の光があなたを照らしてくれますように。
あなたの見る夢とあなたを包む夜が、ただ安らかであるように。
改めて理事長EDを見直したら、モノローグ部分に少し違いがあったことにorzとなりました。
恋愛迷宮であんな展開でしたが、どこにいてもむぎの幸せだけを願っていたんだろうなと。
理事長が優しすぎてどうしようです。(言われても!)
◇
as far as I know
〜願い事〜
掲載: 08/05/10