「君はここにいていい人じゃないんですよ」
少し微笑んでそう言えば、彼女の嬉しそうな笑顔は凍りついた。
すみません、こんなことをあなたに言うときが来るなんて。
来なければいいと思っていた。
来ないで欲しいと願っていた。
「君の帰る場所はここではないはずですよ。・・・彼が待ってます」
この一言がきっと決定的だった。
溢れそうになる涙を必死に堪えるように顔を背けて、そのまま振り返りもせずに彼女は駆け出していた。
「む・・・っ」
むぎさん、そう呼んだら、呼べたら、彼女は止まってくれただろうか。
もしかしたら、振り向いてくれたのだろうか。
もっと彼女を傷つけずに引き離すこともできただろうに、そう考えて長いため息が漏れた。上手く行かない。
傷つけたくなんてないのに、でも少しでも優しい方法で引き離そうとすれば、そのまま引き止めそうになる。
彼女の幸せはここにはない。
彼女の幸せを望むなら、今どこまで傷つけたとしても、彼との未来を選ばせるべきだ。
・・・捨てるつもりはありません。私が捨てられるんです。
自分で言った言葉が蘇る。
覚悟していたのに。
「・・・耐えられる、と思っていたんですがね」
彼女の去った方に視線を投げてそう呟く。
本当に言いたかったのはあんな言葉ではなかった。
私にどんな過去があろうとも、彼女が一緒にいてくれると言ってくれるのが嬉しかった。
それでも。彼女を想うなら。
「本当に大切なんです・・・あなたが」
あんなに傷つくあなたを本当は見たくなんてなかった。
「・・・・・・・愛して、」
る。
彼女がいないと分かっていても。
「これだけ傷つけて言えるわけがない――・・・」
こんなに苦しむのなら、いっそ出逢わなければよかったのに―――