微笑みかけてくれた。
いつも、側にいてくれた。
そして何より、『御堂様』としてではなく、『一哉くん』として見てくれた。
俺は、あいつが好きだった。そう――絶対に言ってやらないが、たぶん、出逢った時から。
「一哉」
「ん・・・・ああ、松川さんか。どうかしたのか?」
「瀬伊、どうも浮かれているようだよね」
「――そうだな」
なんの話をしに来たかと思えば。
「麻生なんか、落ち込みすぎて部屋に篭ってしまっているよ。もう一人は、屋上に篭ってしまっているしね」
「俺の事か?バカ言うなよ、松川さん。篭ってなんてないぜ。・・・星を見に来ただけだ」
そう言うと、はあと溜息をつきながら『ああ、そうかい』とだけ返してくる。
朝から、一宮は浮かれていた。むぎも、様子が少し違っていた。
付き合いだした、と言うことだろう。
一宮がむぎを好きだったのは知っていた。一宮に限らず、この家の男は揃いも揃って、あいつが好きだった。
昨日はクリスマス。
松川さんも、むぎを誘ったと言っていた。
俺はどうせ外には出れないからと、誘うのは控えていたが。
結局、むぎがクリスマスの相手に選んだのは、一宮だった。デートに連れ出したようだが、何をしていたのかは知らない。帰って来たのは遅かったが、夕食まで食べてきたと言っていたのだから、そう遠くまでは行かなかったんだろう。
――そして、松川さんが断られ、俺と羽倉が行動を起さずにいたら、いつの間にやら一宮が、と。
どこかで、思っていたのかもしれない。
むぎが選ぶのは、俺だと。
一宮よりも想っている自信はある。少なくともむぎは俺を嫌ってはいない、と。むしろ、好かれているとさえ。きっとその事に間違いはないんだろう。
ただ、間違っていたのは。勘違いしていたのは。
俺が1番では無かったと言うことだけだ。
「なあ、松川さん――」
「え?なんだい?」
隣で星空を眺めていた松川さんが、いきなり現実に引き戻されたように応えた。
「もっと前から、出逢った時から、優しくしていれば――結果は変わったと思うか?」
「――変わらなかった。そういえば満足かい?」
「――――ありがとう」
結果は変わらなかった。
どうしていようと、きっと。
むぎが選ぶのは一宮だったんだ。俺の出る幕はない。
数週間後――。
一宮は家に帰らなかった。