はぁ。
隣で手をこすり合わせながら、手に息を吹きかけている香穂先輩。
寒い、のかな。
手袋をしていても寒いのかもしれない。
1月の夕方過ぎならこの寒さも仕方ないのかもしれないけど。
「先輩、寒いですか?」
「うーん、ちょっとね。志水くんは大丈夫?駅までちょっと歩くよね」
「そうですけど、先輩も少し遠いでしょう?」
いつも別れる交差点。そこから少し歩くのはお互い様だと思う。
「香穂先輩、今日、家まで送ってもいいですか?」
「え?いいよそんなの!電車の時間もあるんだし、早く帰らないと寒いよ! ほら、交差点もすぐそこだしね」
ほらねと指差した先には、いつも別れる交差点。
前は、先輩と出会った頃は何も感じなかったのに、最近は学院からここまでが近すぎて、寂しくなる。
先輩は、いつも笑って「じゃあね」って言ってくれるけど、少しも寂しいとは思ってくれないのかな。
「ここまで一緒に来てくれただけですごく嬉しかったよ。また一緒に帰れるといいね」
そのまま別れた帰り道。
なんで最後まで送れなかっただけでこんなに残念だと思うんだろう。
先輩の笑顔を思い出すだけで、ちょっと元気になれるんだろう。
「一緒に帰れるといいね」の言葉に、明日も誘ってみようかななんて思うんだろう。
そんなことを考えていた。
この想いの意味に気づくのは、ほんの少し先の話。
この時の僕は、ただ不思議で、ただ先輩に明日は会えるかなと思うだけだった。