「お前ら、いつまでそうしてんの?」
背後からいきなり声をかけられて、びくっとする。
でも先輩はビクッとするより、イラッとしたようだった。
「晶、空気読めよ。邪魔すんな」
「日野さんが襲われかけてるのは助けなきゃだろ?がっつくなよ」
呆れたように言う晶さんに、ますます声のトーンが低くなる。
「襲ってないだろ」
「それに、彼女いない連中の目の毒なんだよ」
さらっと言われた言葉がふと引っかかった。
連中って・・・そんなに彼女連れじゃない人いましたっけ。
って言うか、周り全部彼女連れだから着てくれって話じゃなかったですか。
「そんなに彼女連れじゃない人、いましたっけ?」
「それどころか大半がそうだけど?」
「うわ、馬鹿ばらすな!」
「どういうことですか?」
「え、言っちゃダメなの?」
きょとんとする晶さんに掴みかからんばかりの先輩だ。
もしかして―――
「これって、ほとんどの人が彼女連れって話じゃ・・・?」
「はあ?これ、俺主催のコンパみたいなもんだけど?」
クリスマスにやってるからクリスマスパーティーなだけで、普通の日にやったらなんの変哲もないコンパだよと言われて、何となく力が抜ける。
「・・・・・・・・・・ええっと、芹一はなんか日野さんに弁解することあるっぽいから、俺はこれで」
「お、おいっ」
二人っきりになると、先輩はどうしても視線を合わせてくれようとはしなかった。
「これ誘った時の言葉、覚えてますか?」
「・・・・覚えてます、よ?」
「素直に誘ってくれればいいんじゃないですか?」
「・・・素直に誘って、付いて来てくれたのか?」
「付いてきますよ!」
「さっき笑顔で告白否定したヤツが堂々と言うなよ!」
「私が泣きそうだったから気遣ってくれたかと思うじゃないですか!」
「それだけで付き合うとか、どれだけボランティア精神に溢れた人間だ俺はッ」
「そんなこと言われても、そう思ったんですから!」
付き合い始めて10分経たずにこんな会話だ。
さすがにこれはないと思ったのか、先輩がため息をついた。
ちょっと先輩、それじゃ私が悪いみたいじゃないですか!
「ごめん、いきなり怒鳴るなって話だよな。・・・・・・・・・機嫌直してくれって訳じゃないんだけど、」
そう言って取り出したのは、少し縦に長い箱だった。
「お前に似合うかなって思って。昨日、別れた後一応買っておいたんだ」
「・・・なんですか、これ?」
「チョーカー。ロザリオって言うんだっけか。それをモチーフにしたヤツなんだって」
そう言って箱を開けると、そのまま後ろに回って着けてくれる。
「あ、やっぱり似合ってる。今日、会ったときも、今日の服装にこれって似合うだろうなって思ってた」
爽やかな笑顔を向けられて、思わずドキッとしてしまう。
先輩の中では、今日からじゃなく、昨日誘いを受けたときから彼女扱いしてくれていたのかもしれない。
そう思ったら、信じられないほど幸せで。
これを、目が眩むほどの幸せというのだろうか。
思い過ごしと言われても何でもいい。
今日、このとき、世界で一番幸せなのは私だと、そう思った。