日差しが眩しかったあの日。
公園で僕は、「運命」に出逢った―――そう思ったんだ。
「加地くーん」
「日野さん?おはよう」
可愛らしい声に振り返って。
今日も可愛いねと続けようと笑顔になって。
そして、固まった。
「よ。おはようさん」
「…金澤先生もこの時間なんですか」
何事もなさそうに日野さんの隣をのんびり歩くのは、金澤先生だった。
寒さも極まってきた12月の朝。
日野さんの笑顔と声に温まろうとした途端にこの人、か…。
「こら、お前さんはあからさまにがっかりするなよ」
「え、僕そんなに顔に出てました?」
「否定しないのか。…分かりやすく出てたよ」
「すみません、日野さんのことになると上手く取り繕えなくて」
そう言って笑えば、ため息をつきながらも「まぁいいけどな」でスルーしてしまうのがこの人だった。
「今ね、偶然先生とそこで会ったの。せっかくだから一緒に行きましょうって誘ったら、今度は加地君がいるんだもん。びっくりしたよ」
「朝から加地にまで会うとは思わなかったな、俺も」
そう言って笑いあう二人に、苦笑気味の笑顔を返す。
「僕も同じですよ。金澤先生に会ったのは、この時間だと初めてですしね」
この時間は日野さんがよく登校する時間だと聞いたから、少し早めに出てきてみただけ。
そうしたら運がいいのか悪いのか。こういうことになってしまった。
「そう言えばそうだな。…っと、日野」
「はい?」
「お前さん、今日も弾いていくのか?」
「いいですか?」
どこで、とも言わないのに通じてる会話。
かすかに感じた僕のさびしさには気づかない二人は、傍から見たら微笑ましすぎるほどに微笑ましく笑いあっていた。
「構わないが……書類の整理、手伝えよ」
えー!と抗議の声をあげる日野さんを置いて、笑いながら先を行く先生を二人で追いかけた。
今朝は仲良く登校する先生と日野さん。
お昼は、カフェテリアで先生に席を譲られていた日野さん。
午後は授業中、日野さんと先生の視線が何度も合ってた。
放課後は、金澤先生の隣で次の演奏曲の練習を黙々としていた日野さんがいた。
日野さんが近くにいるときは、僕はどうしたってそっちに視線が向いてしまうんだ。
だって、そこに手が届かない存在だったはずの彼女がいるんだよ?
気になって追いかけてしまう。
でも、追いかけるとそこには絶対に僕を見てくれない彼女の存在しかない。
彼女が目を向けているのは常に音楽、ヴァイオリン。
そして―――
「先生だけ、か…」
彼女を近くで見られるだけでいいって最初は思ってたのに。
どこまで貪欲になっていくんだろう僕は?
先生のことしか見てないって分かっていても、気づいても、思い知らされても。
―――ねえ、日野さん。
君のこと、好きでいることだけは許してね―――
お願いだから、君に恋してるこの気持ちだけは誰も奪わないでいて。